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第72段   * 堀江氏の野望 その5 − フジサンケイグループの非常手段? − *

 
フジサンケイグループが「焦土作戦」と呼ばれる企業防衛策を検討していると報じられている。最終的にニッポン放送の「新株予約権」発行が認められず、ライブドアが経営権を握った場合に備えるとしている。「焦土作戦」とは何か?1980年代に敵対的買収への対抗策としてアメリカで考え出された。買収対象企業の子会社の資産を切り離したり意図的に多額の負債を負わせることで企業価値を低下させ買収側のメリットを失わせる。何とも凄まじい究極の方策・・・なりふり構わぬ方策をとり続けるのは果たして如何なものだろうか?世論の大きな反発を招くと思うが・・・?ちなみに日本国内で「焦土作戦」を実施した例はまだない

(*)
Crown jewel・・・直訳すると「王冠についている宝石」、つまり「垂涎の的となるもの」のこと。M&Aでは買収対象会社における資産価値、収益力、事業力などが最も魅力的な部門のことを指す。魅力的な部門を獲得し対象会社の経営権を握るだけの価値があると判断して株式の大量取得を目指す。「Crown Jewel」取得目的のM&A対策として、買収攻勢に合わせて「Crown Jewel」部門を売却、又は分社化して買収会社の支配が及ばないようにしたりする。この様な買収防衛策を「焦土作戦」と言う。

 ニッポン放送の経営の実態はどうなっているのか?2004年3月期連結ベースでは売上高1094億円、営業利益25億円、ところがニッポン放送単体の売上高は308億円、営業利益は5億円に過ぎない。これに対しポニーキャニオンの2004年3月期売上げが約600億円!何と親会社の2倍の規模に当たる。つまりニッポン放送傘下の他社、特に優良企業ポニーキャニオンへの依存度が極めて高い。
ポニーキャニオンはニッポン放送のまさに「Crown Jewel」と言えるBigな存在と言える。

 ニッポン放送は傘下のポニーキャニオンの株式を56%保有しているが、全てフジテレビに売却することを検討している。もしライブドアがニッポン放送を支配すると、このままではポニーキャニオンも自動的にライブドアの支配下に収まってしまう。そこでニッポン放送が先手を打ってポニーキャニオンをライブドアの支配から免れる狙いがある。
優良子会社を本体のニッポン放送から切り離してしまえば、ニッポン放送の企業価値が大幅に下落することになる。これに対してライブドアはポニーキャニオンの売上げ高がニッポン放送の連結売上げ高の半分以上を占めていることから、「株主総会の特別決議が必要では?」との見解を示している。もしニッポン放送がポニーキャニオン株式売却を決めれば、ライブドアは売却差止めの仮処分を求めて提訴することは必至。

 また
ニッポン放送は保有しているフジテレビの発行済み株式の22.5%を売却することも考えている。これもニッポン放送の有力資産であり「Crown Jewel」的存在と言える。先にフジテレビ株式を手放しておけば、ライブドアがニッポン放送を支配下に置いてもフジテレビに対する影響力を無にすることができる。但しニッポン放送の優良資産の一つであり、ライブドアから差止め訴訟が起こされる可能性が高い。

 
フジテレビがニッポン放送から自社株を買収できれば話は簡単だがそうはいかない。フジテレビの外国人持ち株比率は放送法の外資規制(20%)に近付いている。
フジテレビが自社株を買い増すと、外国人の比率を計算する時の分母が小さくなり20%を超える恐れがある。それではどうするか?「ニッポン放送保有のフジテレビ株式を引き受けてくれる『ホワイトナイト』を探す」、「フジテレビが自社を対象に増資して相対的に既存株主の保有比率を下げる」、「市場で売却」・・・などの方法がある。さてどうするのだろうか?

(*)
ホワイトナイト(White Knight)・・・敵対的買収のターゲットになっている企業を支援する友好的な買収企業。

 
ポニーキャニオンがフジテレビを対象に第三者割当増資を実施し、フジテレビの子会社になることを検討している。ポニーキャニオンの株主は全てフジサンケイグループであり、ライブドアが直接異議申立てはできない。ライブドアはこれに対してどう対処するのだろう。ポニーキャニオン筆頭株主のニッポン放送が56%保有して支配権を持っており、そのニッポン放送の筆頭株主ライブドアが”ニッポン放送が損失を被る”として間接的に差止め訴訟を起こすことが可能だろうか?

 フジサンケイグループの不動産会社サンケイビルは3月14日の取締役会で「フジテレビを対象に第三者割当増資を実施」を決議した。筆頭株主のサンケイビルは、フジテレビの持ち株比率を第三者割当増資によって9.4%から26.68%に引き上げ、産経新聞社を抜いて新たに筆頭株主になる。これらの一連の動きの狙いは何か?
今までのフジサンケイグループの歪んだ構造を変革し、フジテレビを中核としたグループ再編を狙いとしている。

 しかしながらニッポン放送がポニーキャニオンを手放し更にフジテレビ株式を売却した場合、
ニッポン放送は抜け殻同様になってしまう。その場合ニッポン放送の企業価値が著しくに低下すると考えられる。株主の利益を損なう行為と看做されて現経営陣による(特別)背任には当たらないのか?また現経営陣への株主代表訴訟が起こされる可能性もある。それでもリスクを覚悟で敢えて”禁じ手”とも看做せる様な危険な方策をとるのだろうか?ニッポン放送経営陣は相当な覚悟を持って対処する必要がある。

 既にニッポン放送の子会社の保有資産などの価値を調査し、フジサンケイグループ内で売却した場合の税負担などを試算していると言う。子会社の増資を行いフジサンケイグループが保有することで、ニッポン放送から切り離すことも検討している。
一時的にニッポン放送に資金が入るが、結局はニッポン放送の企業価値は実質的に大きく下落する。但し不当に安い価格で売却してニッポン放送に損害を与えることになれば株主代表訴訟の対象になる。そうなっては元の木阿弥・・・今年6月の取締役改選前に行なうことを慎重に検討を進めているはず・・・。もう既に裁判の形勢不利と見て、非常手段として焦土作戦」を選択することを真剣に考えている節が随所に見られる。

 但し「焦土作戦」により巨額の資金がニッポン放送に入ることになると、経営権を掌握したライブドアがその資金を元手に”本丸”フジテレビの株式買収を仕掛けてくる可能性がある。既にライブドアは「議決権比率で1/3超取得を目指す」と伝えられている。更には「50%超取得も視野に入れ買収資金を準備」しているとのこと。こうして見ると敵方に塩を送る様なもので、まさに
「焦土作戦」も”諸刃の剣”と言える。

 ライブドアの攻勢が始まってからフジサンケイグループは慌てていろいろな方策を出してきているので、どうしても
苦し紛れの”後出しジャンケン”の観は否めない。そのあたりが東京地裁の「新株予約権」発行の差止め仮処分審理にも影響を与えているかもしれない。今後また新たな方策を出してくることもあるだろうが、何せフジサンケイグループは常に後手を踏んでいるのでかなり苦しい闘いを強いられる。「新株予約権」発行差止めの仮処分が却下されれば一気に大逆転と言うこともあり得るが・・・?

 
敵対的買収に対する究極の防衛策は『パックマン・ディフェンス』による逆襲。今回の場合フジテレビ、ニッポン放送がライブドアの株式の50%超取得しライブドアの経営権を掌握を狙う。そうすればライブドアによるニッポン放送の買収を阻止できる。またニッポン放送がライブドア株式の25%超取得すれば、ライブドアのニッポン放送の議決権が喪失する。ライブドアがフジテレビ株式を1/3超取得しても、フジテレビがライブドア株式の25%超取得すれば同じことになる。『パックマン・ディフェンス』は多くの資金を必要とするが、フジサンケイグループのシナリオにはもう既に究極の防衛策は入っているかもしれない。

(*)
パックマン・ディフェンス(Pac-man defense)・・・敵対的買収のターゲットになった企業が、逆に買収を仕掛けた企業を買収する為に株式を買い集める防衛策。

 3月12日堀江氏は筆頭株主として、ニッポン放送経営陣に対してフジテレビ株式やポニーキャニオン株式など重要資産を外部に売却をしないよう文書で要請している。ニッポン放送の動きを察知して先手を打って牽制した。しかしながらニッポン放送が更に追い詰められてこの要請を無視する可能性が高い。堀江氏が黙っているはずがない。またまた訴訟になることは必至・・・。
果てしない泥試合は延々と続く

 フジテレビの日枝会長は東京地裁の仮処分決定後、ライブドアとの話合いに柔軟に応じる姿勢を示している。しかしながら
堀江氏の過去からの挑発的言動、フジテレビの脅しをちらつかせながらの姿勢からは本当にまともな話合いができるのだろうか?堀江氏も誰かの助言を受けたのか途中から発言のトーンが柔らかくなったが、今更何とも白々しく感じる。一方フジテレビの姿勢は”北朝鮮が核開発、ミサイルだと背後にちらつかせて6ヶ国協議に応じ様としない”としているのによく似ている様な印象を受ける。

 
ここまで今回の騒動を様々な観点から考察してきたが、ふとあることに気がついた。大事な存在を忘れてはいないだろうか?成蹊大の上田教授は「会社のステークホルダー(利害関係者)であり、最も企業と関係の深い従業員は、企業のもう一つの所有者として尊重されるべきだと思う。 敵対的企業買収が従業員の士気を低め最も重要な人的資源の価値を低下させ、最終的には企業価値を低めることにつながるとすれば株主、買収者、買収対象企業など誰にとっても望ましくない。」と述べている。

 フジテレビも堀江氏も上田氏の発言をよく噛み締めて欲しい。両者とも”企業は株主のモノ”との意識ばかりでもう一つ大事な要素を忘れている。
企業は経営者と株主だけで成り立っているのではない。重要なステークホルダーの一つ従業員をないがしろにしているのではその企業に明るい未来はない。自分がニッポン放送の社員だったらと考えると、「もういい加減にしてくれ!」とやりきれない気分になる。

 堀江氏は6月の株主総会で大半の取締役を送り込み、自身は社長就任の方向で検討していると言う。堀江氏がニッポン放送に経営者として乗り込んできた時、従業員はどの様な反応をするだろうか?敵対的な買収工作、そして数々の言動によりニッポン放送従業員の堀江氏への不信感は半端ではない。現経営陣のみならず従業員からも多くの人材が流出するかもしれない。現在ニッポン放送には社員会があるのみだが、今回の騒動を機に労働組合を結成し新たな事態に備えるとのこと。上意下達で自らの意思通りに全てが動くと思うのはとんでもない間違い。またステークホルダーの取引先(スポンサー)、リスナー(聴視者)もどう出るだろうか?四面楚歌とも言える総反発の状況下で、堀江氏はニッポン放送をどの様に切り回して行くのだろうか?
企業活動は全てのステークホルダーが協力して初めて成り立つ。堀江氏が”金の力”、”数の力”で全て解決できると考えていないとは思いたいが・・・。

 ところで敵対的買収に対する防衛策ポイズン・ピルが日本国内で初めて使われた。3月14日制御機器メーカーのニレコは「敵対的買収を仕掛けられた場合のみ行使できる『新株予約権』を既存株主に割り当てる」と発表した。事前に全ての株主を対象としてに発行するので、「第三者への有利発行」には当たらない。どの様な内容だろうか?朝日新聞によると次の通り。

 
ニレコは、3月末時点で株主名簿に記載された全ての株主に1株当たり2つの新株予約権を発行する。新株予約権は譲渡できず、敵対的買収で同社株が20%以上取得されたことが明らかになると1新株予約権当たり1円で新株に引き換えることができる。例えば同社株50%を買い占めた買収者が出現しても、全ての新株予約権が行使されると株式数が一挙に3倍となり買収者の持ち株比率を17%以下に引き下げることができる。

 仮に全ての株主が「新株予約権」を行使して発行株式数が増加しても個々の株主保有比率は変わらない。同じ利益を上げ同じ配当であれば株主が損することはない。
敵対的買収に対して有効な手段の一つかもしれない。

 最後に敵対的買収に関連して様々な用語があるのでいくつか紹介する。

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ゴールデン・パラシュート(Golden Parachute)・・・企業が買収された時失職する経営者に対して多額の報酬を約束する契約を予め結んでおくこと。

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グレイ・ナイト(Gray Knight)・・・ヘッジ・ファンドの様に自己の利益のみを求める企業で、ホワイト・ナイトより高値をつけるが敵対的ではない企業。両者の中間に位置し大きな影響力を持つのか、あるいは敵対的ではないとは言っても結局は最後にどちらかに高値で売り大きな利益を得ようと言うことなのか?株式取得の経緯はグレイ・ナイトとは異なるが、村上ファンドはどちらの立場なのだろうか?

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マクベス婦人型戦略(Lady Macbethstrategy)・・・第三者が「ホワイト・ナイト」を偽装して企業買収に関わり、後に寝返り敵対的買収者サイドに鞍替えする戦略。これをやったらさぞや非難の嵐が吹きまくることは間違いない。それししても”マクベス婦人”とはよく考え出したものだ。

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マカロニ・ディフェンス(Macaroni defense)・・・敵対的買収が成立した場合に、より高い償還価格で強制的に償還する債券を大量に発行しておく防衛手段。企業買収が行われると債券の償還価格が茹でたマカロニのように膨張することに由来する。

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ゴッドファーザー・オファー(Godfather offer)・・・敵対的買収のターゲットになった企業の経営陣が、自社の株主代表訴訟の懸念して拒絶できないような好条件の買収オファー。とてつもない条件でないと成立しそうにもないが、果たしてどの様な事例があるのだろうか?よほどうまみがあり資金力豊富でないと出来るものではない。

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取締役任期の分散化(Staggered Board of Directors)・・・敵対的買収を防止する目的で、取締役を一度に全部入れ替えるのではなく毎年一 部を入れ替える方式。この方法をとれば買収を仕掛ける企業が通常の投票手続きで取締役会を支配するようになるまでの期間を引き伸ばせる。今回の場合今年6月のニッポン放送の取締役全員改選が泣き所になっている。

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ポイズン・ビル(Poison Pill:毒薬条項)・・・敵対的買収のターゲットになった企業が、自社株の魅力を買収者にとって低下させる措置をとることを定める条項。

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自殺薬条項(Suicide pill)・・・ポイズン・ピルの一種で、敵対的買収が発生したら自社の債務を自社の株式と交換することを定める。場合によっては買収ターゲットの企業が破産に追い込まれることもあり、非常にリスクの高い防衛手段と言える。

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解体買収(Leveraged Buy Out)・・・買収対象企業の資産や将来収益を担保に、金融機関や市場から資金を調達して買収をする方法。対象企業に多額の借金をさせる形になる為経営リスクが大きく、最悪倒産した場合には資金供出者が巨額の損失を被ることになる。3月17日「ライブドアがこの手法を使って3000億円調達してフジテレビ株式の1/2超を目指す」と報じられている。もし実施されれば日本最大級の「解体買収」となる。

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グリーン・メール(Green mail)・・・「さよならボーナス(Bon Voyage Bonus)」、「グッバイ・キス(Good-by kiss)」とも言う。企業買収を計画している者に対する金銭供与。今回の場合フジサンケイグループはライブドアのニッポン放送株式取得がグリーン・メールとの疑念を持っていたと思われる。つまりフジサンケイグループに高値で買い取らせる狙いがあると見ていた節がある。

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超過半数条項(Supermajority provision)・・・外部からの買収を認めるのに必要な株主の議決権数を1/2超から、2/3や3/4に引き上げる。これがあるのであれば初めから定めておけば良いと思うが、何か制約があるのだろうか?有効な手段と考えられるが・・・?

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セーフ・ハーバー(Safe Harbor)・・・買収対象企業が煩わしい政府規制を受ける事業を買収することでM&Aの魅力をなくす為の方策。放送事業は政府の規制を受けるが、今回の場合逆にニッポン放送が放送事業が故に狙われたのは皮肉と言うべきか?

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ピープル・ピル(People Pill)・・・敵対的買収が成立した場合直ちに現経営陣が退陣し、当該ビジネスを熟知しリーダーシップを発揮できる人材が企業に全ていなくなるようにする。今回の場合今年6月のニッポン放送の役員改選で現経営陣の一部が再選されても恐らく辞退するだろう。またニッポン放送社員も少なからず辞める可能性もある。その場合ライブドアによるニッポン放送経営は成り立つのだろうか?
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