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第80段  第72回日本ダービー観戦記 (2005.05.29) 

 
2005年5月29日、府中の東京競馬場で第72回日本ダービー(芝2400m)が行なわれ、一番人気のディープインパクトが2分23秒3の好タイムで2着に5馬身の差をつけ圧勝した。(1着本賞金:1億5000万円!)皐月賞、ダービーの2冠を5連勝の無傷で達成した。これで6頭目(トキノミノル、コダマ、シンボリルドルフ、トウカイテイオー、ミホンブルボン、ディープインパクト)の無傷の2冠馬となった。単勝1.1倍、単勝支持率は73.4%と圧倒的な人気を集め、あの国民的アイドルのハイセイコーの66.6%を大幅に上回った。凄まじい人気で流石の武豊騎手もかなり緊張した様で、レース後の笑顔が全てを物語っている。芝の状態は昨年ほど良くないものの良馬場で早い決着が予想された。花曇りのやや蒸し暑い中でレースが行なわれ、昨年のキングカメハメハのダービーレコードタイでの決着・・・ディープインパクトの強さは多くの人にディープなインパクトを与えた。ちなみにディープインパクトの名前の由来は馬主の”競馬サークルを盛り上げるためにも、衝撃を与えるような強い馬になって欲しい”との願いから命名された。

 
ディープインパクトは栗東の池江泰郎厩舎所属、父サンデーサイレンス、母ウインドインハーヘア、北海道早来町のノーザンファームで2002年3月25日に誕生した。昨年のキングカメハメハも北海道早来町シャダイファームの生産馬で、2年連続ダービ馬を輩出した。ここまで4戦4勝、勝鞍は全て芝2000m、重賞は弥生賞(GU:中山)と皐月賞(GT:中山)を制している。前走の皐月賞ではスタートでつまづき下手すると落馬の恐れがあったにも関わらず、そんな不利は何のその最後方の位置取りから3角すぎから一気に捲くり1分59秒2で快勝、2着シックスセンスに2馬身1/2差をつけて快勝した。並みの馬であればスタートでのあれほどの不利は致命傷で挽回不可能でまずは勝ち目はない。スタートしたその瞬間スタンドの観客から一斉にどよめきが上がったが、何の影響もなかったの如く涼しい顔をして?あっさり差し切った。この皐月賞の豪快な勝ちっぷりからダービーでの一番人気、更には圧勝まで充分に予想できた。ディープインパクトのスタートの悪さは定評?があり、過去4戦中2回も出遅れている。唯一の心配はスタートだけ・・・それでも少々失敗では勝敗に影響しないとまで言われている。

 
池江調教師はJRA栗東所属で1978年に調教師免許を取得、1979年2月9日第1回中京5日目3Rで初勝利を挙げ2005年1月30日に通算600勝を達成している。GTはメジロマックイーン(1990年菊花賞、1991年、1992年春の天皇賞、1993年宝塚記念)、ノーリーズン(2002年皐月賞)など通算10勝を挙げているが、ダービーには今まで無縁でぜひとも欲しいタイトルだった。池江調教師は騎手時代には1973年あのハイセイコーが登場した時のダービーに唯一ボージェストで騎乗しシンガリに敗れている。武豊騎手の様に今回の勝利を含めてダービー通算4勝挙げている騎手もいるが、ダービーのタイトルを取れない騎手、調教師が圧倒的に多い。それだけダービーのタイトルを取りたいのは全ての競馬関係者の悲願と言える。今年ディープインパクトと言う願ってもない強力な管理馬に恵まれ、それこそここで取れなければ2度とチャンスがないかもしれない位の想いがあったと推察できる。単勝支持率73.4%の相当なプレッシャーが池江調教師には圧し掛かっていた。ダービー終了後のInteviewで池江調教師は万感の想いで涙ぐみ言葉を詰まらせていた。今回のダービー制覇で牡馬3冠調教師となった。「オメデトウ、そして素晴らしい」との賛辞を池江調教師に献呈する。

 ついで
2番人気は京都新聞杯を快勝したインティライミで佐藤哲三騎手が騎乗する。佐藤騎手は昨日中京の金鯱賞(GU:芝2000m)をタップダンスシチーで同一重賞3連覇を果たしており気分良くダービーに臨んでいると思われる。インティライミは栗東佐々木昌三調教師の管理馬で、皐月賞には間に合わなかったが5月7日の京都新聞杯を制しダービー出走権を得た。皐月賞でディープインパクトと対戦した相手は既に格付けが済んだと看做され、未知の魅力のあるインティライミに期待を託したものと思われる。それでもディープインパクトを打ち破るのは難しいと思われている。その証拠に2番人気インティライミの単勝オッズは19.5倍と大きく引き離されていた。

 ところで今年のダービー1、2着馬はもノーザンファーム(吉田勝己代表)の生産馬・・・ノーザンファームは18頭中4頭出し(ディープインパクト、ローゼンクロイツ、ペールギュント、アドマイヤフジ)でまさに今が”旬の生産者”と言える。特に今年のノーザンファームの快進撃は凄い。桜花賞をラインクラフト、オークスはシーザリオと史上初の春3歳クラシック4冠完全制覇の偉業を達成した。それだけではない。高松宮記念をアドマイヤマックス、NHKマイルCをライクラフトで制し既に年間GT6勝している。過去のGT最多勝は早田牧場の年間7勝、この記録を書き換えるのはまず間違いない。設備投資も充分に行なっていて、場内には2001年に作った屋根付き坂路があり冬の厳しい北海道でも天候に左右されず調教できる。 昨年社台ファームを抜いて初のトップブリーダーに輝いた
ノーザンファームは黄金時代を迎えた。この快進撃は何時まで続くのだろうか?

 ダービーのフルゲートは18頭、2003年に産まれた約9000頭の中から選ばれた俊馬揃い・・・。ダービーに出走させ、そして栄冠を勝ち取るのが全ての馬主の夢・・・栄冠を勝ち得た馬主の嬉しさはいかばかりのものか容易に想像できる。。パドックではディープインパクトは馬体は仕上がっているが、大観衆に少々気合いが入りすぎて少々入れ込んでいる様に見えた。さすがに他の有力馬もこの晴れ舞台に向けてキッチリ仕上げてきた。素晴らしいレースが期待できるが、
ディープインパクトの馬体の良さは群を抜いている。馬体重は皐月賞より4Kg増の448Kg、だがその素晴らしい馬体は体重以上に大きく見せている。本馬場入場後のディープインパクトは晴れの舞台を喜んでいるが如く生き生きとしている。すっかり落ち着いて何の不安も感じさせない。

 定刻の午後3時40分ゲートが開き18頭が一斉に飛び出した。と思ったら懸念した通りディープインパクトはスタートで大きく煽り1馬身ほど出遅れ最後方から進む展開になった。以前の様な28頭もの多頭数であればどうなったか分からないが、今は18頭と適正な頭数で必ずしも不利になるとは言えない。所謂”想定内?”の出遅れで、皐月賞の出遅れでの圧勝を見ているので誰も心配していなかった。大方の予想通り10番コスモオースティンが先手を取り、前半5F(1000m)60秒9と平均的な落ち着いたペースで引っ張った。出遅れたディープインパクトは無理せず後方に控え機を窺っている。3角手前まで内につけていたが、3角すぎに捲くリ気味に上昇しいつの間にか3角と4角の中間では中段やや後の外につけていた。私は必ずディープインパクトは3角すぎで大外に持ち出すと考えていた。これだけの実力差があれば何も無理して馬混みに突っ込む必要はなく、大外を回って紛れのないレースをすれば間違いなく勝つとの確信を持っている。

 インティライミの佐藤騎手は予め作戦を立てていたのだろう。早目の仕掛けで4角で最内を突き先頭に立ち逃げ込みを図った。佐藤騎手の頭脳的な乗り方で通常ならあのまま勝ってもおかしくない。しかしながらそこにはとてつもない”化け物”が立ち塞がった。武豊騎手はいつもより早目に仕掛け、直線坂下でインティライミに並びかけあっと言う間に交わし先頭に立った。必死に粘るインティライミを尻目にディープインパクトの末足は冴えわたり差が開く一方・・・完全な独走体勢で勝利は不動のものとなった。3着には皐月賞2着のシックスセンスが入線したが、皐月賞で格付けが済んでいることを再確認しただけに終わった。最後は武豊騎手も抑え気味で、ゴール前では鞭を右手に持ち替え鞭を振ってガッツポーズする余裕すらあった。上がり表示3F(600m)34秒5、ディープインパクトは33秒4で駆け抜けている。とにかくエンジンの性能が違いすぎる。
ディープインパクトと他の馬では、ターボエンジンと普通のエンジンほどの大きな差がある。

 レース後武豊騎手は「馬の強さに感動している。乗っていて本当に素晴らしい。」と絶賛、さすがに興奮を隠せなかった。単勝支持率73.4%、2度とないだろうと言われるほどの凄まじい人気の重圧は天才に重く圧し掛かっていたが、圧倒的人気に応えた勝利はよほど嬉しかったことに違いない。いつもよりガッツポーズが大きく、破顔一笑の笑顔は実に印象的で記憶に残っている。

 ところで馬主の金子真人氏は昨年のダービー馬キングカメハメハのオーナーと言うことをつい先ほど知った。ダービー2勝の馬主は今回を含めて8名いるが、
同一オーナーのダービー連覇は史上初めての快挙・・・何と幸運な馬主だろうか。しかしながらただ凡庸としていて幸運を掴んだ訳けではない。金子氏は自らセレクトセールに足を運び自分の目で判断して馬を選ぶ。ディープインパクトは小柄な馬体が嫌われてのか、同一セレクトセールで落札されたサンデーサイレンス産駒14頭中9番目の7000万円で落札された。入札価格の順番通りに活躍する訳けではないところに馬選びの難しさがある。血統と馬体は分かっても内蔵の強さ、競走馬としての適性/能力などはその時点では分からない。さて来年金子氏はダービーを目指してどんな馬を出してくるのだろうか?

 秋はいよいよ3冠最後の菊花賞(京都:芝3000m)に挑む。現状ではディープインパクトを打ち負かす馬が出現するとは考えにくい。しかしながら何があるか分からない競馬の世界・・・皐月賞、ダービーを連覇した馬が夏を順調に過ごせなかったり怪我で3冠達成を逃している。昨年のキングカメハメハは神戸新聞杯快勝後残念ながら故障でターフを去っている。夏を順調に過ごし再び秋にその勇姿を見せて欲しい。そして
”無傷の3冠馬”の出現を心待ちにしている。その先には有馬記念、年が明けて春の天皇賞、ジヤパンカップが待っている。更にその先世界への挑戦と夢は大きく広がる。ヨーロッパ、アメリカのGTを制し、日本競馬の実力向上を世界に見せつけてくれることを願っている

(2005.10.30追記 菊花賞観戦記

 10月23日3冠最後の菊花賞が行なわれ、単勝1番人気のディープインパクトが3分4秒6、2着のアドマイヤジャパンに2馬身差をつけて快勝した。デビュー以来最高のスタートが仇になりディープインパクトは盛んに行きたがり武豊騎手もかなり苦労している。それに武豊騎手の言によると『1週目の3、4角付近でゴールが近い』と思い込み馬自身がスパートをかけたらしい。それでも流石武豊、1週目スタンド前では(Riskはあるが)上手く内へ馬を入れて壁を作り何とか前へ行きたがるのをなだめていた。『口を割る』仕草が見られたので、もし馬群の外へ出していたらそのまま一気に行ってしまったかもしれない。

 レースはタップダンスシチーの逃げで有名な佐藤哲三騎手が手綱をとるシャドウゲイトが主導権を握る。最初の5F(1000m)61秒2、次の5Fは63秒4のよどみのないペースで逃げている。シャドウゲイトの逃げが紛れのない”力の勝負”を演出したと言っても過言ではない。向正面では落ち着きが見られようやく騎手と馬と折り合いがついていたが、前半のスタミナロスがどの程度のものか懸念された。京都名物三角からの坂の手前では逃げるシャドウゲイトから10馬身ほど後方にディープインパクトがいるがじっと力を貯めている。4角手前からアドマイヤジャパンが絶妙なタイミングで仕掛け、直線先頭に立ち良い脚色でそのままm逃げ込みを図る。4角を回る時ディープインパクトは先頭の馬からは7馬身ほど差があったが、4角を回る時の脚色からゴール前では順番が入れ替わると確信した。池江泰郎調教師は”(前半のスタミナロスが頭をよぎり)一瞬ヒヤッとした”と言っている。直線を向いてからのデーィプインパクトの末足の伸びはまさに桁違いで、ゴール前100mでは粘るアドマイヤジャパンをあっさり交わして先頭に立った。

 
0秒3差の2着のアドマイヤジャパン(皐月賞3着)は横山典弘騎手の巧みな騎乗で通常ならば勝利してもおかしくない。横山典弘騎手は1998年菊花賞にセイウンスカイに騎乗し、見事なペース配分の逃げを打ち3分3秒2の菊花賞レコードで快勝している。今回も実に上手く乗っていたと思う。アドマイヤジャパンは上がり3Fを推定35秒3で走っているが、ディープインパクトは何と約2秒上回る驚異的なスピードで最後600mを駆け抜けている。前半でかなりスタミナロスしたと思われるが、最後にこの様な凄い力を発揮できるとは・・・。勝ったディープインパクトがあまりにも強すぎるとしか言い様がない。然るに大善戦したアドマイヤジャパン、それに横山典弘騎手の健闘を讃えたい

 21年ぶりシンボリルドルフ以来2頭目の『無敗の3冠馬』が誕生した。次走は有馬記念(JCは回避?)と言われているが、どこに出るにせよどこまで無敗の快進撃が続くのか興味が惹かれる。2004年12月19日の新馬戦デビュー時の体重は452Kg,そして菊花賞では444Kgとどちらかと言えば小さい方に属する。当歳のセレクトセールでもその小さい馬体の為、サンデーサイレンス産駒にも関わらず人気が薄く7000万円で落札された。ちなみに当時サンデーサイレンス産駒は通常1億円以上が取引相場・・・結果として”安い買い物”だったと言える。その小さめの馬体から繰り出す底知れぬパワーには圧倒される。スターホースの誕生に競馬界は大いに盛り上がる。将来は凱旋門賞などの海外GT制覇の期待がかかる。
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