第85段 * 第51回有馬記念観戦記 ‐ ディープインパクトのラストフライト ‐ *

 
12月24日中山競馬場、晴れ絶好の良馬場、定刻より少々遅れ午後3時30分2006年JRAの総決算、第51回有馬記念(芝2500m)のゲートが開いた。1番人気はサンデーサイレンス産駒のディープインパクト、2番人気はドリームパスポート、3番人気にはダイワメジャーが続く。大方の予想通り10番枠の柴田善三騎手の3歳馬アドマイヤメインが先手をとる。秋の天皇賞では前半5F(1000m)58秒8の早いペースで逃げダイワメジャーの3着に逃げ粘った。1周目スタンド前では早くも縦長の展開となり、ディープインパクトは後方3番手の”指定席”にじっくり待機した。

 今年も”Grand Prix”有馬記念には豪華なメンバーが一同に介した。今年春の3歳クラシックで皐月賞、ダービーの2冠を制した
メイショウサムソン、秋の天皇賞、マイルCSを制したダイワメジャー、今年の皐月賞2着、ダービー3着、菊花賞、ジャパンカップ連続2着と惜敗続きのドリームパスポート今年5月シンガポール国際GTを制した北海道の雄コスモバルク、今年11月オーストラリア国際GTを制した一昨年の菊花賞馬デルタブルース、同じオーストラリア国際GT2着、それに前走春の目黒記念を4連勝で制した遅咲きの6歳馬ポップロック、昨年の宝塚記念、エリザベス女王杯の覇者6歳牝馬スイープトウショウなどなど・・・。やはり真打ちは何と言っても一際抜きん出た存在デープインパクト1頭・・・。フランスの凱旋門賞では薬物検出→失格ととんだところでケチを付けられたものの、春の天皇賞、宝塚記念、秋にはジャパンカップを制し現役最強馬の地位は揺るがし難い。それに有馬記念を最後に引退となれば当然最後の勇姿には期待が一極集中となる。

 
アドマイヤメインはハイペースの大逃げを打ち場内はどよめいた。前半5F(59秒5)は11秒台のラップを踏み、2番手につけたダイワメジャーを20馬身以上引き離して一人旅となった。スローペースで逃げても仕方がないと見て思い切った戦法に出たと考えられる。離れた2番手グループにはダイワメジャー、メイショウサムソンなど強力な先行馬が位置する。向こう流しではディープインパクトは悠然と後方3番手で満を持して鞍上の武豊騎手のゴーサインを待っていた。直線の短い中山で逃げる馬のはるか後方に位置するのはその実力に充分な自信を持っている証拠・・・。興味の焦点はディープインパクトがどこで上がって行くかの一点に絞られた。

 ディープインパクトは三角手前から徐々に差を詰め大外を回り全くの馬なりで楽に上がって行った。まだこの時点では武豊騎手からのゴーサインは出ていない。それにも拘らず他の馬を交わす勢いだから凄い。四角手前でゴーサインが出るとディープインパクトは一気に加速・・・まるで他の馬が止まってるかの如く見える。TVを見ていて「速い!」と私は叫んだ。この時点でディープインパクトの勝利に確信した。毎度のことながら
トップスピードになった時の速さはスーパーホースの名に相応しい。車に例えれば積んでいるエンジンが桁違い・・・ターボエンジンと普通のエンジンほどの差を感じた。

 四角を回る時には差の無い後方4番手に位置取り、桁違いのスピードで大外から他の馬を一気に交しゴール前200mで先頭に立った。一完歩がまるで違う。大人と子どもが一緒に競争している様にすら見えてしまう。更にはに他の馬があたかも逆方向に走っている様な錯覚に襲われる。これでは全く勝負にならない。他の13頭はどこまでも脇役でしかなかった。直線坂を上がり残り100m辺りでは武豊騎手は勝利を確信して手綱を緩め追うことをしなかった。それでもデイープインパクトは上がり3Fを33秒8で一気に駆け抜けた。まさに栄光の
ラストフライト・・・大空高く鮮やかに飛んだ。それも目一杯に追われることもなく余裕たっぷりに・・・。(そんな必要も無いが)最後まで本気で走ったらどの位の差がついたのだろうか?

 
ディープインパクトは2分31秒9、2着のポップロックに3馬身の差をつけて圧勝した。展開による紛れもなく強い馬がすっきりとかつ豪快に勝つと極めて心地よい今回の有馬記念は事実上ディープインパクト1頭の為のレース・・・「引退に向けての唯一ディープに用意された花道」と言っても過言ではない。それだけDeepなImpactを残しターフを去って行く。

 
ディープインパクトはサンデーサイレンスの子供ながら体が小さく見栄えも良くなかった。その為かサンデーサイレンスの産駒としては7000万円の破格の安値(最低でも1億円以上が相場)で現オーナーが買取った。ところが一見脆弱な馬が13戦12勝2着1回、7冠達成(皐月賞、ダービー、菊花賞、天皇賞、宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念)、総獲得賞金:14億5455万1000円との素晴らしい成績を残すのだから競走馬は外見だけでは分からない。引退後は総額51億円の種牡馬シンジケートが組まれ、更に種付け料は1年目としては国内史上最高の1200万円とのこと。ディープインパクトは生涯にいったいどの位稼ぎ出すのだろうか?考えただけで気が遠くなる。

 ラストランから1時間後
5万人の観衆の見守る中盛大な引退式が行なわれた。武豊騎手初め関係者、それに数多くのファンの「ありがとう」の声を背にディープインパクトは12月25日新天地の北海道へ旅立った。社台スタリオンステーションにて種牡馬生活に入り来春には種付けが始まる。2008年春には初年度産駒が誕生、そして2010年にはディープ2世がターフに登場する。強い馬の血統が代々引き継がれて行くのも競馬の醍醐味の一つ・・・。今は亡き偉大な父サンデーサイレンスの後継者として多いに期待している。 子供達がどの様な活躍を見せてくるのか今から楽しみにしている。そして父が果たせなかった凱旋門賞制覇との壮大な夢を子供達が叶えることを願う。(ディープインパクトの全レース、及び引退式の動画は こちら 参照)

 ところで有馬記念当日の中山第6R「ホープフルS(2歳オープン:芝2000m)」に
ディープインパクトの弟「ニュービギニング(父:アグネスタキオン)が武豊騎手を鞍上に出走した。前走新馬勝ち後の2走目の今回はスタートで出遅れ終始最後方を進む展開になった。直線後方一気の追い込みで2分1秒1、2着に1馬身3/4の差をつけ快勝した。兄と同じく小柄な馬体(444Kg)で四角手前から一気に捲り切ったレースっぷりは兄を彷彿とさせる。年明けには3歳クラシック路線に名を連ねるがそこから愈々真価を問われる。ディープの弟、池江調教師、そして鞍上武豊となれば必ず注目を集める。(現時点ではまだ何とも言えないが)レースっぷりには大物の片鱗が窺える。ニュースター誕生への期待を込めてニュービギニングの今後を見守って行く。

 さて
ディープインパクト引退後の勢力分布はどうなるのだろうか?来年は2着のポップロック、3着のダイワメジャーの6歳勢、それに4着のドリームパスポート、5着のメイショウサムソンの5歳勢辺りが中心になるのだろうか?そこに遅咲きの新勢力が加わるのだろうか?菊花賞を制したエルコンドルパサー産駒のソングオブウィンドにも期待していたが、残念なことに12月10日香港GT出走後に右前浅屈腱炎発症が判明した。浅見調教師によると復帰には暫く時間を要するとのこと・・・。”巨人”が抜けた後では小粒な感じは否めないが、群雄割拠の戦国時代も見ていてそれなりに面白さがある。来年の有馬記念では今年とは一味違う楽しみがあることを期待している。
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