第16段 * 第53回別府毎日大分マラソン ‐後味の悪い出来事‐ *
2004年2月1日第53回別府毎日大分マラソンが行われ、9回目のマラソン挑戦の武田宏旦選手(四国電力)が2時間12分2秒で初優勝を飾った。日本人の同マラソンでの優勝は3年ぶり、近頃男子マラソンで日本人の優勝が少ないので「優勝」の2文字はなかなか良い。一般参加で初マラソンの三菱重工長崎の徳永考志選手が2時間13分42秒で2位、今回新設の「アジア友好選手」枠招待の柴家華選手(中国)が3位に入った。しかし218選手が参加したが、タイムも平凡でレース自体も特に見るべきものはなかったと思う。武田選手は特に大きな実績もなく一般参加で、ベストタイムは1999年の別府大分マラソンの2時間15分17秒。全日本実業団駅伝も最近2年はメンバーから外されるなど不調に喘いでいたが、自己ベストを3分15秒短縮しての優勝は立派と言える。大会実行委員会は武田を海外レースに派遣することを決めた。良い経験になるので更に研鑽し頑張ってきてもらいたい。
ところで武田の初優勝に水を差すつもりはないが、後味の悪い出来事があった。このマラソンでは2人のペースメーカーがついた。今時は国内外のマラソンでペースメーカーがつくようになったので、ペースメーカー自体珍しいことではない。レース開始直後から2人のペースメーカーが予定通り先頭を走りその直後有力処がつける展開となった。通常ペースメーカーは30Kmすぎあたりでレースを止めることが多いがこの日は違った。(2月8日に行なわれた東京国際マラソンではペースメーカーはぴったり30Kmでレースを中止した。)レースを止めるところか片方のペースメーカーは快調そのもので差は広がる一方、39Km付近ではもう既に30秒以上の差で誰の目から見てもこのペースメーカーの勝利は疑う余地はない。すると突然コーチが出てきて制止した。私はその時は事情がよく飲み込めず目を白黒させるだけだった。見ている人達も驚いたろうが、走っている選手、特にいきなりトップに立った武田はそれこそ事情がわからずに驚いた。武田はレース後に自分の前を走っていた選手がペースメーカーということを知り、「まさか、ペースメーカーがあそこまで走っているとは。優勝? 実感はまだありません」と語った。これは本当だろう。ほとんど諦めかけていた優勝が転がりこんできたのだから・・・。
このペースメーカーを努めた選手はタンザニアのサムソン・ラマダーニで昨年の別府大分マラソンの優勝者、それに既にタンザニアのマラソンのオリンピック代表に決定している。サムソン・ラマダーニは練習の替わりに実戦による調整としてこの大会のペースメーカーになったそうだ。当然のことだが日本陸連の規則上ペースメーカーも最後まで走ることが許されている。当初は30Km付近でレースを中止する予定だったが、。「収容車があると思ったけど見つからなかった。車がないと体が冷えるから」という理由で39Km付近まで走り続けた。主催者側との「(ゴールしない)ペースメーカーの契約」でコーチが中止させたが、それならばサムソン・ラマダーニがどう思おうともっと早く制止すべきではなかったのか・・・?いかにも中途半端、あそこまで走ったのであれば最後まで走るのが筋ではなかろうか?あれでは見ている多くの人に疑念を持たせる結果になってしまった。意地の悪い言い方をすれば、『武田に優勝を譲る』為にサムソン・ラマダーニはレースを無理やり中止したと・・・。武田の真の気持ちを計ることはできないが、優勝は優勝としてうれしいだろうが素直に喜べるのだろうか?傍から見るとサムソン・ラマダーニに武田は優勝を恵んでもらったようだ。気のせいかレース後の武田のインタビューの受け答えも晴々したようには見えなかった。日本陸連の沢木強化委員長は、「ペースメーカーが走ってもよいという規則になっている。ただ、どうせ止めるならもっと早く止めればいいのに。」と述べている。まさにその通り、関係者の思いも複雑に違いない。
サムソン・ラマダーニはレースを中止した後、「まるっきり疲れていなかった。いい練習になった。3月14日の大会(琵琶湖マラソン?)はペースメーカーじゃないから勝ちたい。」と笑いながら余裕たっぷりに言っている。結局他の出場選手はサムソン・ラマダーニに稽古台として軽くあしらわれたにすぎない。サムソン・ラマダーニとしてはちょうど良い練習になった上に、それなりの報酬を受け取っているはずだから何も言うことはない。ただ別府大分マラソンの2004年の勝者として、それに連覇の記録を残せたらもっと良かったかもしれない。
とにもかくにもこの様な後味の悪いことはなくして欲しい。事情を知らない人が見ると、もしかしたら八百長ではないかと疑うかもしれない。そんなことを思われたのでは真面目に努力しているスポーツ選手の立つ瀬がない。
ところで女子のマラソン代表は高橋尚子の予期せぬ敗戦でまだ不確定要素が多い。1月の大阪女子国際マラソンのそれこそ思わぬ低調な結果を見て小出監督はやたら強気になっている。今日(2月2日)の新聞にも名古屋女子国際マラソンへは出場しない方向と報道されている。名古屋では高橋の過去の実績を覆すような素晴らしい結果は出ないと踏んでいるらしい。3月14日の名古屋が終わるまでは何とも言えない。名古屋で好記録が出たら?高橋の評価は?一方男子のマラソン代表はどうなるのだろう?2月8日の東京国際マラソン、3月の琵琶湖マラソンを経て、最終的には3月15日に男女共に代表が決まる。誰が見てもすっきりとした日本陸連の公正な決断を期待する。