2005.12.12
昨日ジェイコム株式の誤発注問題に関連して東証から『注文取消処理に係る株式・CB売買システムの不具合について』が出された。当初東証は「自己のシステムには問題ない」と言い切っていたが、ここに来て前言を撤回する破目に陥ることになった。異常事態の収束は強制決済により図られるが、”みずほ証券の全面過失”として全てみずほ証券が費用負担する方向で検討が進められている。ところが東証にも過失があるとなれば状況は一変・・・東証の責任は免れない。みずほ証券の過失が清算される訳けではないが、東証の過失責任も合わせて追求されなければならない。当座はみずほ証券が費用負担するとしても、その後両者の過失割合に応じた負担額の算定が必要になる。とすれば両者の過失割合の算定が大きな問題になるが、そう簡単に決着がつく話ではなく難航は必至・・・場合によっては訴訟による決着になる可能性もある。まずは当面の異常事態の解消が優先されるが、どうやらその後には大きな揉め事が待ち構えている。
今日午前日本証券クリアリング機構はジェイコム株式の強制決済(解け合い)の実施を決めた(こちら 参照)。決済価格は1株当たり91万2000円で買い手は取得額との差額を受け取ることになる。決済価格の算定根拠は12月8日終値の77万2000円に今日までの2営業日に予想される値上がり分として14万円を上乗せしたと見られる。2営業日連続のストップ高の20万円加算でないところが微妙な決め方にも思える。全ての買い手が強制決済の対象となり拒絶は認められない。日本証券クリアリング機構の山下社長は価格の強制力について「機構の規則では証券会社は決定に従う義務がある」とした上で、「証券会社だけでなく、顧客にも効力が及ぶという判例が過去にある」と述べている。
それにしても日興CG、野村證券、外資系証券などの”ハイエナ”証券会社が”幽霊株式”の取引で莫大な利益を上げるのは実に腹立たしい。法には触れない行為かもしれないが、他人の不幸につけこんで暴利を貪る阿漕なやり方は極悪非道としか言い様がない。”他山の石”などと高を括っているとその内痛烈なしっぺ返しを喰らうかもしれない。
みずほ証券が買い戻すべきジェイコム株式は9万6326株ある。今回の決定でみずほ証券の損失額は134億8564万円増加する。既に約270億円に達しているので、損失額は最終的には400億円程度にまで膨らむ見通しとなる。さてその後が問題・・・みずほ証券、東証、更には東証システム担当の富士通の三者間で費用負担を巡って見苦しい争いになる可能性がある。ところでジェイコムの取引が12月14日に再開されたらどうなるのだろうか?ケチがついただけに今後の成り行きに注目が集まる。
『ドリームテクノロジーが平成電電の再建支援企業に正式決定』を受けて、株価は前場取引開始直後に前日比3650円高の3万6200円をつけた。典型的な寄り天でその後は下落を続け、終値は前日比1950円安の3万600円で取引を終えている。某掲示板で「平成電電の再生スポンサーが決まれば爆上げ」と大騒ぎしていたが、蓋を開けて見ればご覧の通りとはこれ如何に・・・?よく考えると(よく考えなくても?)ドリームテクノロジーの様な赤字企業が再生スポンサーと言うのも何やら可笑しい。147億円の資金調達の備えはあるものの、自分の足元がおぼつかないのに他人の助っ人などできるのだろうか?それに11月末には平成電電から出向した池田氏がドリームテクノロジーの社長就任とは・・・これもまた何やら怪しい香りが漂っている。(以前の)子供が親に救いの手を差し伸べたことになるが、単に親子関係の逆転しただけで両者の関係は以前と何ら変わりない。こんなことで果たして平成電電の再生は上手く行くのだろうか?それにしてもこんな?マークのつくドリームテクノロジーをよくぞ再建支援企業に選定したものと訝しく思う。
ダイナシティの株価は200億円のMSCBに嫌気が差され、終値は前日比1390円安の2万9260円で取引を終えている。ライブドアは既に筆頭株主になっているが、200億円のMSCBを全て株式転換してそのまま保有すれば過半数超取得、つまり経営権取得となる。見方を変えればライブドアの考え方次第でここの株価はどうにでも出来る。第三者割当増資で取得した21.52%は長期保有するかもしれないが、MSCB200億円については売却して利益確保を図る可能性が高い。ダイナシティを連結子会社にするつもりであれば、MSCBではなく第三者割当増資にすればよいと思うが・・・?ライブドアは次々とMSCB引き受けで確実に利益を上げている。今回もわざわざMSCBにしたのはどう考えても利益確保が狙いとしか考えられない。何にせよ希薄化進行は確実で既存株主にとっては何ら良いことはない。
2005.12.13
今回の『ジェイコム株式誤発注問題』は改めてコンピューターシステムの上に胡座をかいて(頼り切って)油断していた東証の脇の甘さ・・・言い換えれば東証の危機管理体制の不備を世の中に曝け出す結果となった。11月には東証、名証で相次いでシステムダウンにより全面売買停止の異常事態を引き起こし「市場の番人」としての信頼が根底から揺らいでいる。そこに今回の問題が加わったのだから”恥の上塗り”で全くお話にならない。東証、名証のみならず全ての証券取引所は危機意識をより一層強く持ち抜本的な再発防止策で改善に努める義務がある。
東証の担当者はみずほ証券の異常な売り注文直後に電話連絡を取り合っていた。既にその時点で東証には誤発注との認識があったが、何故かその後はみずほ証券に任せっきりでActionを取らなかった。みずほ証券は何度も注文取消しに失敗しているが、何故東証は状況を直ちに調べなかったのか疑問が残る。みずほ証券が売り注文取消しを諦めて買い戻しを行なったことで東証は売買停止措置を行なわなかった。この過程を見ると何度も事態悪化を防ぐ機会があった。然るに東証関係者の危機意識の欠如が被害の拡大を招いたとも言える。
ところで東証の規定では売買状況に異常を認めれば強制的に売買停止しなければならない。東証とみずほ証券の詳しいやり取りは分からない。しかしながら「極端な安価で発行済み株式をはるかに上回る売り注文」、しかも「売り注文取消しが出来ない」とはどう考えても異常な状況・・・この時点で東証は何をさておいても『売買停止』措置を取る必要があった。そこで何も出来なかったのは東証の怠慢と断ずる。東証の天野常務は記者会見で「売買停止などの対応をもう少し早くやれば」と述べているが、今更そんな”たられば”の話をしてももう遅い。常日頃から緊張感を持って危機管理に取組み実践していないから、今回の様な突発的な緊急事態に何も出来ず大きな被害をもたらすことになる。
東証、名証のシステムは富士通が担当している。近頃の相次ぐシステム障害で富士通の信頼が著しく低下している。ITバブル崩壊直後の2002年3月期決算で過去最悪となる3825億円の赤字を出したが、2006年3月期には500億円程度の黒字が見込めるまでに回復している。折角の回復基調が今回の不祥事で大きなダメージを受け逆戻りする恐れがある。(今後どうなるか分からないが)富士通にも責任が及ぶ可能性があり、場合によっては巨額の損害賠償負担となることもあり得る。そうなれば業績に(巨大な)暗雲が立ちはだかる。そんな不安を反映して富士通の株価は下げ基調にあり、終値は前日比25円安の839円で取引を終えている。明日以降も富士通の責任の大きさ如何により株価が激しく揺れ動く可能性がある。
今のところシステム障害の責任に関して富士通が大きくクローズアップされている。しかしながらシステムの責任は全て富士通とは言えない。富士通が勝手にシステム設計/構築を行なうことはない。当然東証にもシステム担当部門(あるいはそれに準ずる部門)があり、富士通は協業でシステム設計を行ない最終的な仕様を固める。無論最終的な仕様の承認は東証のシステム部門が行なう。今回の様にシステム仕様に問題があれば両者に責任がある。だからこそ両者の責任割合が大きな問題となる。ここに大きく揉める要素があり、状況によっては訴訟による決着も考えられる。
日清紡の新日本無線に対するTOBが先週成立したが、村上ファンドは12月9日に『日本無線経営陣の責任を徹底的に追求する』との声明を出した。(村上ファンドが6ヶ月以上前から新日本株式を保有しているとして)恐らく日本無線経営陣に対して損害賠償請求の株主代表訴訟の準備をしていると考えられる。70円も高い買付け価格を提示したのに無視されたのだから黙って引き下がることなどあり得ない。近々何らかの動きがあると思われる。その時にはまた世の中を賑わすことになるが・・・そうなったら第三者として場外乱闘を楽しませて頂くことにする。
新日本無線の株価はTOB合戦の決着がついたことを受けて下落を続けている。村上ファンドが買付け価格を950円に引き上げたことを受けて12月5日に950円(終値)をつけたが、その後6営業日続けての下落(下げ幅:96円)で今日の終値は854円となっている。村上ファンドが日清紡に対抗して敵対的TOBを仕掛ける直前の水準(11月18日の終値:839円)に近づいて来た。TOB合戦が終息した現段階でここの株価が上昇する理由は見当たらない。村上氏の仕掛けに惑わされて高値掴みで損した方には「お気の毒」としか言い様がない。『村上銘柄』には常に危険が充満していることを忘れてはならない。
2005.12.14
UBS証券東京支店が昨日関東財務局に提出した大量保有報告書によると、12月8日現在ジェイコム株式をUBSグループ2社合計で3万8198株!保有している。何と発行済み株式(1万4500株)の2.63倍に相当する。多くの証券会社がジェイコムの”幽霊株式”を取得しているが、UBS証券グループの保有量が断トツに多い。強制決済で得る利益は121億円と推定されるが、まさに”濡れ手に粟”のボロ儲け・・・。UBS証券はかつて電通誤発注で大損害を被っているので謂わば”借りを返した”形になった。昨日与謝野金融担当相は「誤発注と認識しながら取得することは美しい話ではない。経営者は行動の美学も持つべきだ。」として証券会社の対応を批判している。これには全く同感・・・”他人のミスにつけ込んだ”行為はMoral Hazardそのもの・・・厳しい批判に晒されて当然と言える。とにもかくにもかくの如き”やられたらやり返す”醜態を2度と出現させてはならない。
『ジェイコム株式誤発注の強制決済で利益を得たUBS証券グループなど大手証券会社6社が、168億円の利益をみずほ証券に対して全額返還する方向で最終調整』と共同通信が報じている。全額返還するのはUBS証券、日興コーディアルグループ、モルガン・スタンレー・ジャパン、リーマン・ブラザーズ証券プ、クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券、野村証券の6社。証券会社の”火事場泥棒”的な行為について与謝野金融担当相、自民党などから批判が出ていていた。無論世の中一般の方々の大半も”ハイエナ”証券会社に対して批判的な立場にあり、こうした世の中の動きにも抗し切れなかったと見られる。返還が実現しても更に他で約230億円の利益が出ている。やはりミスの代償は大きい。
株式に詳しい方に伺ったが、「手元にない株を売る」という行為についても正当な売買になる可能性がある。例えばMSCBの株式転換を行ない受渡日までに確実に株券が手に入る状況での空売りが「手元にない株を売る」ことに該当する可能性があるとのこと。しかしながらどう考えても実際に発行されている株式より多くても取引が成立するのは奇妙としか言い様がない。何らかの歯止めをかけてそんな馬鹿げた取引を規制しないと、また何時か似た様な問題を引き起こすことがあるかもしれない。
みずほ証券は昨日実施した強制決済により『ジェイコム株式を1073株(現物)保有』することになった。ジェイコムは上場時に3000株公開しているので、1927株が株主の手元に残っていることになる。ところでジェイコムは昨日『株式の立合外分売実施のお知らせ』を開示した。今日の取引開始前にみずほ証券保有の1073株を1人1株に限定し91万2000円で全て売却された。85の証券会社から6112株の申し込みがあり比例配分された。この1073株は正常な取引が行なわれていれば本来みずほ証券の手元にあるはずのない株式・・・。即ちみずほ証券が保有していれば株価上昇による不当利得を得るなどの問題が生じる可能性があり、当然何らかの方法で即刻処分される必要がある。
(*)立合外分売とは・・・売買立会時間外に大量の売り注文を分売する売買方法。上場会社の株式分布状況の改善、特に個人株主の増大を図るための方策として広く利用される。具体的にはまず取引参加者は事前に取引所に届出を行ない、売買立会終了後に分売の条件を発表し翌日の午前8時20分から午前8時45分までに買付けの申込みを受け売買を成立させる。分売価格は届出日の終値を基準にした固定価格で行われる。
さて注目のジェイコムの株価は前場取引開始後にストップ高102万円の買い気配となり、結局終値はストップ高の102万円で取引を終えている。とんでもないトラブルの出現で知名度抜群となり、マネーゲームの格好の標的になってしまった感がある。今朝立合外分売で入手した1073人の方々はほんの少しの間に10万8000円の含み益を得たことになる。となるともし更に株価が上昇することになれば強制決済に応じさせられた方々の不満は更に増大する。強制決済との本来あり得ない姿での決着は今後に大きなシコリを残した。改めて2度とこの様な手法を使う場面が出現してはならないと強く感じる。
構造設計計算偽装問題の渦中にあるシノケンは昨日の『特別損失発生、及び2006年3月度業績予想修正』を開示した。偽装物件の対策費用として約31億円発生することが見込まれ、最終的な損失は5億200万円(前回見通し:4億9000万円の黒字)になるとしている。資金繰りの為に既に12月8日に福岡銀行からの25億円融資が決定しているが、更に今日午前1時37分に『MSCB20億円発行のお知らせ』が開示された。『割当先:Sandringham Fund SPC、発行総額:20億円、当初転換価額:30万円、下限:15万円:上限:45万円、転換価額修正方式:毎週のVMAP』となっている。
福岡銀行からの25億円では足りず、更に運転資金確保の資金調達の必要性から(銀行融資はこれ以上望めないので)MSCBを選択せざるを得ない。当座の資金確保により倒産の危機は回避できるが、シノケンの信用失墜は著しく今後の業務展開には”茨の道”が待ち構えている。ところで今日現在の時価総額は86億4900万円、そこに20億円のMSCB、更には業績不安となれば希薄化の進行は明らか・・・当然株価に悪影響を与えることになる。ちなみにシノケンの株価は嫌気が差されて31万円を下回って推移していた。ところが11時少し前に国会での証人喚問で姉歯氏が「シノケンの場合は木村建設への丸投げ、シノケンからの圧力否定」発言が飛び出し状況は一変・・・前場引け直前にストップ高(5万円高)の37万5000円まで急騰した。それにしてもこの敏感な反応には凄まじいものを感じる。結局後場には下げて、終値は前日比1万1000円高の33万6000円で取引を終えている。
2005.12.15
『日本最古578年”創業”の金剛組、高松建設傘下に』との記事を見つけた。578年創業とは凄い。いったい何者?金剛組は飛鳥時代の578年聖徳太子が四天王寺(大阪市)を建設する為に百済から招いた宮大工(金剛正和社長の先祖)が仕事を始めたのが“創業”とされる。全国で寺社建築などを手掛け、文化財の修理や復元でも高い技術を持つ。飛鳥時代の創業から1427年とは・・・壮大な歴史ロマンの薫りがする。金剛組はバブル期の土地購入による借入金が膨らみ、自力再建が困難となり中堅ゼネコンの高松建設に営業譲渡されることになった。金剛組は特殊な技術を有する老舗企業であり、高松建設としては自社のブランド力向上に繋がると判断したと考えられる。(過去からよくあるパターンの)バブルのツケが致命傷になったが、草場の陰では”ご先祖様”が苦虫を噛み潰した様な顔で嘆いているかもしれない。
UBS証券など6社はみずほ証券の誤発注によるジェイコム株式取引で得た推定168億円は、株式市場安定の為の基金創設や公的団体への寄付に利益を充てる方向で検討している。当初みずほ証券への直接返還が検討されていたが、「損失補填的なことをするとかえって世論の批判を浴びる」との意見が大勢を占めた。ところで日本証券業協会は12月20日の会合で「全ての証券会社に利益返上の要請を決める」としている。6社以外の証券会社の態度は明らかになっていない。もし利益を返上しなければ世間の風当たりが強くなることは間違いない。最終的には応じることになると思われる。
今回の誤発注で利益を得た個人投資家には税金の問題がある。通常投資家が証券会社に『特定口座』を保有していれば、取引による最終利益に10%の税金について証券会社が代行して申告を行なう。しかしながら今回の強制決済は通常の株式売買とは認められない可能性があり、その場合利益が投資家の『特定口座』に入れられないことになる。利益は雑所得として他の所得と合算して課税されるので税率が10%より高くなる可能性が高い。しかも投資家自信が確定申告しなければならない。日本証券業協会は国税庁、金融庁に対し雑所得としない様に要望しているが、果たしてどうなるのだろうか?20億円を超える暴利を貪った個人投資家の存在が発覚した現状ではかなり厳しいと思われる。
ジェイコム株式は今回の異常事態のお蔭でまともな取引が出来ない状況に陥っている。本来であればさほどの注目を集めるとは思えない企業が一証券会社の世間を騒がす大失態により一挙に知名度抜群になってしまった。そこで寄ってたかって”お祭騒ぎ”を演じ狂乱状態を作り上げている。今日も前場取引開始直後から買いが殺到し、終値はストップ高(20万円高)の122万円で取引を終えている。新規上場直後には株価が激しく動くことが多いが、今回の場合はそこにとてつもない+αが加わってしまった。この異常な状況がどこまで続くか分からないが、あまり株価が上昇し過ぎるとどこかで割高感から一転して急降下することが考えられる。
ドリームテクノロジーの株価は今週に入り下落を続け(下落幅:7350円)、終値はストップ安の2万5200円で取引を終えている。ここに群がる多くの方々の期待とは裏腹に平成電電再生スポンサーに決定したら下がる一方・・・某掲示板では多くの方々、特に『100万円を夢見る会』の方々は蒼ざめて声もない。平成電電の再生スポンサーに決まったとは言っても詳細はこれからで不安な要素が残っている。平成電電の債務総額は1200億円、その中にはまだ取扱い未定の平成電電匿名組合が集めた巨額資金も含まれる(こちら 参照)。村上ファンドから147億円投入されても、ドリームテクノロジーが本当に再生スポンサーとしての役割を果たせるのか疑念がある。それに元々親子関係にあった両者の立場が入れ替わっただけの再生スポンサー決定は何やら可笑しい。さて民事再生法適用申請から承認・認否決定まで少なくとも半年要する。どの様に進行するのか今後の展開が注目される。
(陰の声)12月19日がCB97億円の申込み期日・・・村上ファンドは本当に申込むのだろうか?ところで11月18日に手にした31万3873株は村上ファンドがまだ保有しているのだろうか?
2005.12.16
証券会社6社がみずほ証券のジェイコム株式誤発注で得た利益を『日本投資者保護基金』を活用して返還することを受けて、金融庁と日本証券業協会は同基金の役割を定めた証券取引法を改正する方向で検討を開始している。証券取引法第79条には『証券会社が破綻し投資家からの預かり金などを返還出来なくなった場合、日本投資者保護基金が(原則として)一顧客当たり1000万円を限度として損失を補填する』ことが定められている。今回の様な事態に対処する為にも同基金の業務範囲を拡大する必要があると判断したと考えられる。同基金が証券会社から徴収している『負担金』は税法上損金処理がなされ法人所得から控除出来る。つまり法人税の課税対象にはならない。金融庁と日本証券業協会は今回6社から返還される利益について『負担金』と同様に扱うことを決め、国税庁に対して税制上の優遇措置を取る様に求めている。
新日本無線の株価は”村上台風”が去り、9営業日の続落で村上ファンドが横槍を入れる前の水準に戻った。終値は前日比7円安の824円で取引を終えている。高値掴みで損失が膨らみ今頃頭を抱えている方がいるかもしれない。村上ファンドが日清紡に対抗して敵対的M&Aを仕掛けた翌日のストップ高、翌々日の1000円超と派手な動きはいったい何だっだのだろうか?”金の力”に物言わせて強引に捻じ伏せようとした村上ファンドの作戦は失敗に終わった。村上氏としては完璧に面子を潰されたも同然・・・「70円も高値なのに何故?」怒り心頭で株主代表訴訟の準備をしているかもしれない。但し本気で新日本無線のTOBを仕掛けたとすればの話だが・・・。
アドテックスの株価は相変らず低迷が続き、終値は前日比1430円安の1万8050円で取引を終えている。今年の最安値(終値)を記録したが、ちなみに最高値は1月25日の8万1200円・・・それにしても派手に下落している。MSCB49億円の資金調達に失敗してから2ヶ月強経過しているが、その後一向に資金調達の話が出て来ない。資金繰りがかなり悪化していると思われるが、果たしてアドテックスの存続は大丈夫なのだろうか?そんな不安な状態が続いている内は株価上昇は望めない。それどころかどこまで下落するのか予測がつかない。時価総額が今日現在23億5300万円では容易にスポンサーが現われるかとは思えない。
それに加えてまだ不安材料がある。2002年7月15日に発行した『スイス・フラン建転換社債型新株予約権付社債』の満期は2006年12月31日となっているが、これにはプット・オプション(2005年12月31日に105%で償還)がついている。業績不安、資金繰り不安など悪材料満載では、引受け先がプット・オプションの権利を行使して償還を要求することも考えられる。今日18時現在の為替レートの1スイス・フラン≒90.48円で換算すると、発行総額6000万スイス・フラン≒54億2880万円となる。さてもしプット・オプションの権利行使で多額の償還要求があればいったいどうなるのだろうか? 直近の話として注目される。
2005.12.17
村上ファンドは自らの新日本無線へのTOBが不成立になったことを受けて、新日本無線、及び日清紡経営陣に対して『当社が提示した950円以上の株主価値実現して頂きたい』、『日清紡によるTOB終了後、新日本無線の株価が下落している現状を真摯に受け止めるべき』とのコメントを出している。新日本無線の業績からすると果たして950円もの株主価値があるかどうか疑念がある。加えて”新日本無線の株価が下落している現状”と村上氏は言うが、ただ単に騒動勃発前の水準まで株価を戻しただけ・・・。一時的にせよ1000円超まで上昇したのは単に村上ファンドがTOB合戦を仕掛け株価を吊り上げたことによる。つまり”実力で株価上昇したのではなく恣意的に引き上げられた”に過ぎない。
ところで日清紡のTOB成立を受けて村上氏は少々トーンダウンしている様にも見える。しかしながら百戦錬磨の村上氏はむざむざ黙って引き下がるほど”軟”ではない。12月9日に出したコメントでは『日本無線経営陣の徹底的な責任追及』とあり、今後批判の矛先は日本無線経営陣一点に集中する可能性が高い。「70円も安い買付け価格に応じ会社に損害を与えた」として日本無線経営陣を訴えることになると思われる。6ヶ月以上保有している株主であれば訴訟費用8200円で株主代表訴訟を起こすことが出来る。村上氏が要件を満たしているかどうかは分からないが、仮に満たしていなくても村上氏に賛同する株主がいれば可能となる。恐らくこの件の落とし前は司法の場でつけられることになる。
昨日金融庁は金融審議会の作業部会でTOB規制の見直しに関する報告案を提示した。上場企業の1/3超の株式を市場外と市場内の取引を組み合わせて取得する場合もTOB規制対象とする。TOBを仕掛けられた企業がTOB期間中に株式分割や新株予約権の発行などの買収防衛策の導入を決定した場合、買収者が不測の損害を被る恐れがあることからTOBの撤回を原則認める。金融庁が来年の通常国会への提出を目指す「投資サービス法」(仮称)に盛り込まれることになる。
現行の証券取引法では市場外取引で上場企業の1/3超の株式を買い付ける時にはTOB実施を義務付けている。ところがライブドアのニッポン放送乗っ取り騒動では堀江氏はこの網にかからない様に巧妙にすり抜けた。村上氏もまた阪神電鉄株式の40%を超える大量取得の際、市場内、市場外取引を組み合わせてTOB規制の「抜け穴」を潜り抜けた。証券取引法の規定が如何に”大ザル”であるかを露呈した結果になり、規制強化により綻びを無くすことが急務とされていた。報告案には『市場内、市場外取引を組み合わせて上場企業株式の発行済み株式の1/3超を取得する場合、まとめて一つの取引と看做してTOB規制の対象とする』ことが記述されている。今回規制が追加されても法律で全てに網をかけることは困難・・・ずる賢い輩は目敏く新たな穴を見つけるかもしれない。対症療法になるのはある程度は止むを得ない。それでも限りなく穴ゼロに近づける為の法整備の努力を期待している。
2005.12.18
『東証が買収防衛策として特定株主に株主総会での拒否権を与える『黄金株』の導入について上場企業に条件付きで容認する方針』と報じられている。早ければ年内に制度要綱を定め2006年3月施行を予定している。東証は11月下旬に株主平等の原則や投資家保護などの観点から、導入すれば上場廃止など強硬に『原則禁止の方針』を打ち出したが、与謝野金融担当相や経済産業省、買収防衛策を積極的に導入したい企業など政財界の反発に対して妥協したと看做せる。
東証は『黄金株』発行の条件として(1)株主総会や取締役会の決議で無効可能、(2)有効期間の限定などを挙げている。導入する企業は全て東証に事前相談しなければならない。『黄金株』は使い方によっては薬にも毒にもなり得る”両刃の剣”と言うべき存在・・・。「性悪説」の立場で、言い換えれば愚かな人間は何をするか分からないとの前提で(当然考慮されているはずだが)一定の歯止めの確立が必要不可欠。耐震強度偽装問題でも大きな問題として浮き彫りになったが、チェック機能が働かない(何も無い)仕組みにしてはならない。
耐震強度偽装問題が景気回復傾向を受けて好調なマンション業界を直撃している。今のところ今回の問題で直ちに売れ行き悪化とはなっていないが、マンション業界への信頼がガタ落ちになっているだけに先行きは必ずしも楽出来る状況にはない。この問題による被害が更に拡大し、遂には”姉歯物件”以外にも疑惑の目が向けられている。木村建設が関わった3000件のマンションについても至急調査が必要になっている。今回の問題は特殊なケースであって欲しいし、(疑念が頭の中では高いウエイトを占めているが)その様に信じたい。もし”氷山の一角”であれば、マンション業界、ひいては不動産業界全体を根底から揺るがす事態に発展する。Q(コスト)とD(納期)を極端に優先し、Q(品質、安全性)を疎かにした愚かな輩がとんでもない事態を招いた。無論公的なチェック機能の確立が必要なのは言うまでもないが、業界の自浄努力でキチンとしたQの管理体制を確立しなければならない。さもないと顧客からの信頼を取り戻すことは難しい。
そんな大変な状況下でライブドアはダイナシティに巨額資金を注ぎ込む。既に約70億円を投入して21.5%保有する筆頭株主になっているが、更に200億円ものMSCBを引き受ける。どう見ても何か目論見があって投資しているとしか考えられない。ライブドアは何を考えているのだろうか?MSCB200億円の株式転換→売却で大きな利益確保を狙っているのだろうか?それとも手当たり次第に業務範囲を拡げている感のあるライブドアが”不動産業も儲かる”と見て子会社化を狙っているのだろうか? さて果たして目論見通りコトが運ぶのか興味が惹かれる。