第10段 * 2003年競輪グランプリを見て ‐競輪、競馬、競艇の世界‐ *
2003年12月30日東京の京王閣競輪場で『競輪グランプリ’03』が行われ、岐阜の山田裕仁が優勝、賞金7000万円を獲得した。これで山田は競輪グランプリ2連覇、2003年獲得賞金2億1500万円となった。NHK−BS2で放映されたが、実に激しいレースで2003年の締めくくりを飾るに相応しいレースだった。出場資格が日本競輪選手権(競輪ダービー)などGTの勝者に賞金獲得ランキング上位者を加えた9名に与えられる。競輪の選手は皆このレース出場を目指して1年間頑張る。今年はGT優勝の山田、小嶋敬二、太田真一、伏見俊昭、村上義弘、佐藤慎太郎、賞金上位の吉岡、岡部芳幸、小野俊之の9名が進出。
残り2周をすぎてジャン(鐘)がなる前にレースが動き伏見が先行、村上も突っ張り先行、一気にペースアップした。残り1周の向正面で後方にいた山田と吉岡稔真が外から捲くり気味に上がっていった。第4コーナーを回り山田は車群を割って突き抜け、吉岡は大外を回って追い上げた所がゴール。山田と吉岡の位置取りの差、つまり内・外の差は大きい。吉岡の追い込みに勢いがあったが、ゴール線上では非常に微妙。スローVTRでは僅かに山田が残っているように見えた。
吉岡には実に惜しいレースであった。ミスター競輪「中野浩一」の引退後、東の横綱「神山」と並び西の横綱として一時代を築いてきたが、
平成11年のGT『全日本選抜競輪』を最後にGTの優勝から遠ざかっている。今日のレースを見ると復活の兆しが充分に見える。吉岡の次走は1月22日からの今年最初のGT『小倉競輪祭』、期待している。(『小倉競輪祭』は小橋が優勝、神山は準決勝で敗退、山田、吉岡は予選で敗退。)
ここに常連の神山雄一郎の名が無いのは寂しい。2003年は神山にしては不調に終わったが、2004年はぜひとも豪脚復活してグランプリに戻ってきて欲しい。2004年の初戦、神山は立川のGV「鳳凰賞典レース」で優勝、幸先の良いスタートを切った。次走は『小倉競輪祭』、弾みをつけて吉岡共々頑張って欲しい。
私は車券を買うことはないが、競技としての競輪に興味を持っている。中野浩一が世界選手権10連覇の偉業を成し遂げた頃からTV中継を見る様になった。さすがミスター競輪と言われただけあり本当に強かった。中野が現役時代TVに出た時、詳しい数値は覚えていないが肺活量、太股、背筋力などに逐一驚いた記憶がある。ちなみに公式データによると神山の主な数値は以下の通り。肺活量:6300cc、太股61cm、背筋力:180Kg、胸囲:104cm・・・。太股61cm、片足だけで女性のウエストほどの太さ、これにはびっくりする。また最高速度は66.2Km/h、自転車で車並みに速度が出るとは・・・!どのスポーツでもそうだが、鍛えてある肉体はすさまじい。
競輪は競馬や競艇とは違いスタートに緊張感はない。スタートの号砲がなると選手達は相手の出方を見ながらゆっくりとスタートをきる。次は位置取り、選手間の連携が重要になる。「南関東ライン」、「九州ライン」、「東北ライン」など通常同県、あるいは同じ地方で連携することが多い。出走メンバーを見ればおおよそどのようなラインになるかは想像がつく。競輪では競馬のパドックの様に選手紹介があり、選手は出走前にバンクを周回する。これは単なる顔見世ではなく、誰と誰が連携するのか観客に示すという意味がある。位置取りが落ち着くと淡々と周回を重ねる。傍から見ると無味乾燥にただ回っているだけの様に見えるが、実は目に見えない所で神経戦が行われている。残り2周の頃から動きが出て誰がいつ仕掛けるかでレースが大きく変わってくる。ジャンが鳴る頃にはレースは急激に動き、それぞれのラインが仕掛ける。このあたりのスピードはすごい。これが自転車かと思わせる。そしてゴール、上位に来る選手の自転車の伸び足は違う。競馬では「馬7、騎手3」と言われる。競輪は「人10」なのだろうか?競馬の騎手、競艇の選手と比較すると、競輪選手は自前の体が全てと思う。
私は舟券を買うこともないが、競技としての競艇をTVで良く見る。12月20日から大阪の住之江競艇場で、『第18回賞金王決定戦』が行われた。優勝賞金1億円の超ビッグレース。出場資格は獲得賞金ランキング上位12名のみ。更に決勝に乗れるのはトライアル3走の獲得ポイント上位の僅か6人、この6人の枠を巡り壮絶な死闘が繰りひろげられる。とにかく決勝に残れなければ1億円も何もない。田中信一郎、今垣幸太郎、今村豊、松井繁、石田政吾、山崎智也の6人が12月24日の決勝進出。1枠の田中が好スタートから見事に逃げを決め優勝した。
競艇では選手が乗る舟は抽選で決まる。勝率の良い舟、そうでない舟と抽選による運・不運がある。それではそのまま舟の良し悪しで結果が決まるかというとそうではない。舟が決まると選手は技術者として舟の調整を自分自身で行う。技術者としての腕が確かであれば舟の調子も変化する。
競艇の醍醐味はまずはスタート、少しでも良いスタートを切ろうと選手は全神経を集中する。選手は舟をスタートラインの後方に待機する。10秒前になると助走を始め、スタートラインでできる限りドンピシャに決めようとする。選手は1/100秒レベルの体内時計を持っていて見事にスタートを切る。ぎりぎりに合わせているので少しでも狂うと、スタートを早く切ってたちまちフライング失格になってしまう。第18回賞金王決定戦では山崎が5/100秒早くスタートを切りフライング失格になった。次に1マークの攻防が見所。各舟艇は1マークで180度ターンする。少しでも有利な位置取りで1マークを回ろうと殺到する。横波を受けて外に飛ばされたり、最悪の場合は転覆することもある。ここでの攻防で多くの場合大勢が決まる。
競馬はスタートの緊張感、レース展開、ゴール前の叩き合いと最初から最後まで息が抜けない。スタートで出遅れるとほとんどの場合致命傷になる。レース途中は逃げ馬のペース配分が重要になる。競馬の騎手もやはり体内時計を持っていてどの位のペースで走っているか分かる。それでもレース展開のアヤで身動きが取れないこともある。第4コーナーを回り最後の直線では激しい追い比べとなる。むろん馬の能力があるのが大前提だが騎手の腕が大きく結果を左右する。一つの例として、昭和48年菊花賞がある。ハイセイコーの増沢騎手が絶妙のスローペースで先行し第3コーナーすぎから先頭に立ち逃げ込みを図った。誰もがハイセイコーの勝利を確信した次の瞬間、名人武邦彦(武豊の父)のタケホープがものすごい末足でハイセイコーに並んだ所がゴール。写真判定に持ち込まれ、長い時間の経過の後タケホープのハナ差と出た。3000m走って2頭の差は僅か10cm!増沢騎手が未熟であったのではなく、この時の武邦彦の騎乗が凄すぎたのだ。武邦彦でなければ勝てなかったと言われている。
私は競輪、競艇、競馬それぞれに見所がありおもしろいと思う。ただ単にギャンブルの対象としてのみ見るのではあまりにもつまらない。やはり鍛えられたプロスポーツ選手の技、素人がはるかに及ばない高度な技、その素晴らしさを私は楽しんでいる。素人が決して超えられない世界をプロの世界に求めているのだ。