トップ アイコン
前の段ヘ

トップ アイコン
ペンペン草
トップヘ

トップ アイコン
次の段ヘ

第42段  第71回日本ダービー観戦記 (2004.05.30) 

 
2004年5月30日、府中の東京競馬場で第71回日本ダービー(2500m)が行なわれ、一番人気のキングカメハメハが2分23秒3の驚異的なタイムで快勝した。(1着本賞金:1億5000万円!)ついにNHKマイルカップ、ダービーのいわゆる”変則2冠”を達成した。天気予報が良い方に外れ30℃を越す、まるで夏の陽気の中で従来のダービーレコードを2秒、コースレコードを0秒3も更新した。土曜日もレコードタイムが出るほどの素晴らしい馬場・・・この日もダービーは早い決着が予想された。競馬はやはり良馬場が最高・・・見ていて実に気分が良い。

 
キングカメハメハは栗東の松田厩舎所属、父Kingmambo、母マンファス、北海道早来のシャダイファームで2001年3月20日に誕生した。ここまで6戦5勝、重賞は毎日杯(GV:阪神、2000m)とNHKマイルカップ(GT:東京、1600m)を制している。特に前走のNHKマイルカップは1分32秒5の素晴らしいタイムで快勝、鋭い末足で2着コスモサンビームに5馬身差をつけた。この豪快な勝ちっぷりからダービーでの一番人気は予想された。不安材料としては中2週のローテーション・・・前走のNHKマイルカップの圧勝の反動が心配されている。もう一つの不安材料は前走がマイル戦・・・過去70回のダービーでは前走がマイル以下で優勝したのは、昭和18年のクリフジ、昭和22年のマツミドリ、昭和29年のゴールデンウエーブ、昭和31年のハクチカラ、昭和41年のテイトオー、それと平成14年のタニノギムレットの6頭しかいない。果たして今回は如何に・・・?

 松田厩舎では3年前クロフネで同じパターンで臨み、NHKマイルカップに快勝したもののダービーでは5着に敗れている。一昨年はタニノギムレットでやはり同じパターンで臨み、NHKマイルカップは直線の不利で3着に敗れたがダービーはシンボリクリスエスを下し優勝している。
松田国英調教師は3度目の正直を目指し、周到な準備で今回の挑戦に挑んだと思う。しかも5月になって松田調教師は既に2つのGT、NHKマイルカップとオークスを制して勢いにのっている。ダービー前のインタビューでは、「誰が見ても楽な勝ち方だったでしょ。NHKマイルCを使ったことがオーバーワークになってはダービーには勝てないんです。あくまでもダービーを目標に置いていたので、カメハメハにとって前走は程よい疲れになったんじゃないですか。」と松田調教師は語っている。すごい自信の表れと言っても良い。

 ついで二番人気は
北海道競馬のコスモバルク、父ザグレブ、母イセノトウショウ、北海道三石の加藤牧場で2001年2月10日に誕生した。血統が平凡ということもありなかなか売れず、ようやく400万円で買い手がついたそうだ。時としてそのような馬が活躍するのだからわからないものである。ここまで8戦5勝(内JRAで4戦3勝)、重賞はラジオ短波杯2歳ステークス(GV:阪神、2000m)と弥生賞(GU:中山、2000m)を制している。皐月賞トライアルの弥生賞を快勝したことで皐月賞では一躍一番人気に押されたが2着、この時はスローペース、展開のアヤで10番人気のダイワメジャーにまんまとしてやられた。この時ゴール前で1ハロン(200m)10秒台の足を使い、コスモバルクは”負けて尚強し”の感を持たせた。鞍上は北海道の五十嵐冬樹騎手、むろんダービー初騎乗・・・ダービーは特別でその雰囲気、プレッシャーは独特のものらしい。不安材料としては五十嵐騎手へのプレッシャー・・・?

 コスモバルクが注目を集めたのは、北海道競馬のみの『
認定厩舎制度』(いわゆる外厩制度)の適用第1号であることによる。外厩制度とは・・・調教師が自主的に管理する民間育成施設等から、競馬開催当日の競走直前に競馬場に輸送し出走させる競馬システム。コスモバルクは北海道で直前の調教を行ない、レースの2日前に東京競馬場入厩している。傍から見ればかなり厳しそうに思えるが、外厩制度は調教の多様性や競走馬の手厚い精神的なケアなどメリットも多いと聞く。(外厩制度については後日また別途論じることにする。)認定厩舎制度適用第1号のコスモバルクが一躍3歳クラシック戦線に躍り出たことで世間の注目を集めることになった。現在認定厩舎は8あるが(内4厩舎は北海道競馬休催中の為管理馬なし)、4厩舎に13頭在厩している。おそらくいずれコスモバルクに続く競走馬が出現するであろう。初年度でこれだけの競走馬を出したのだから、今後更に注目を集めることは必至である。

 
ダービーのフルゲートは18頭、2002年に産まれた約9000頭の中から選ばれた俊英揃いである。ダービーに出走するのが如何に大変かがこれを見ても分かる。パドックではコスモバルクは馬体は仕上がっているが、気合いのリがよすぎるのか少々入れこんでいるように見えた。一方キングカメハメハの馬体も素晴らしく落ち着きはらっている。さすがに他の有力馬もこの晴れ舞台に向けてキッチリ仕上げてきた。素晴らしいレースが期待できる。

 午後3時40分ゲートが開き18頭が一斉に飛び出した。10番のフォーカルポイントがスタートで少々後手を踏んだ以外は問題なし。大方の予想通り最内枠を引いたマイネルマクロスが第一コーナー手前で先頭にたった。この時点でキングカメハメハは中団外めの絶好のポジション、一方コスモバルクは3番手につけている。第一コーナーをまわる時コスモバルクが少し口を割っているように見え、かかって行き過ぎなければ・・・と脳裏に不安がよぎった。向こう流しに入りマイネルマクロスが2番手を大きく引き離し大逃げを打つ。なんと最初の5ハロン(1000m)を57秒6の超ハイペース、はっきり言って完全なオーバーペースでマイネルマクロスが突っ走る。かつてカブラヤオーが最初の5ハロンを58秒6の超ハイペースで逃げ切り、この時は壊滅的なハイペースで勝利したことに驚嘆の声があがったほどである。いくら馬場状態が良くてもこれを1秒も上回るとは・・・!

 キングカメハメハは中団に控えじっくりと先行馬の動きを見ている。一方コスモバルクは第2コーナーを回って馬が落ち着いたかに見え、離れた2番手を追走していた。そのまま我慢できればよかったのだろうが、第3コーナー手前で先頭と一気に差が詰まった。そして残り3ハロンの標識の手前でコスモバルクはマイネルマクロスをかわし先頭にたった。どう見ても仕掛けが早すぎる。私はこれを見て「早すぎる!」と心の中で叫んでいた。五十嵐騎手は第4コーナー手前で2回後続の馬の様子を窺っている。コスモバルクの手応えが怪しくなってきて後方を見たのか、それとも余裕で後方を見たのか?結果から言えば後者だったようだ。

 キングカメハメハもコスモバルクを意識してか早めに動き、第4コーナーを回る時にはコスモバルクのすぐ後にまで上がってきている。キングカメハメハが並びかけると、コスモバルクの脚色は既に怪しく馬群に沈むのは時間の問題であった。結局直線坂上で一杯になり後続馬にもかわされ8着に沈んだ。皐月賞馬のダイワメジャーも直線坂上ではもはや圏外に去り6着に沈んだ。ゴール前1ハロンの標識をすぎる頃にはキングカメハメハが5番人気のハイアーゲームを引き離し勝利は不動のものになった。粘るハイアーゲームを3番人気のハーツクライが大外から追い込み2着に入線した。

 コスモバルクは先行タイプなだけにハイペースに巻き込まれなければと心配していた。残念ながら不安が的中してしまった。また
得体の知れない”ダービーの重圧”が五十嵐騎手にかかったこともあろう。ダービーは一種独特の雰囲気を醸し出している。初騎乗の五十嵐騎手を攻めるのは酷というもの・・・。またいつの日かダービー騎乗のチャンスがあるかもしれない。まだ終わったわけではない。秋には3歳クラシックの最終戦『菊花賞』(京都、3000m)があるここで皐月賞、ダービーの無念をはらしてもらいたい。3歳クラシックが終わっても、天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念などGTがある。まだまだチャンスはある。五十嵐騎手はかなりショックを受けているとのこと・・・一刻も早く立ち直り次に経験を生かして欲しい。またコスモバルク共々一つでも多くタイトルをとるように頑張って欲しい。コスモバルクを管理する田部調教師も、コスモバルク以降も更に挑戦を続けると言っている。大いに期待している。

 
キングカメハメハの安藤勝己騎手の騎乗はお見事。現在はJRAの騎手だがもともと公営競馬の騎手で、JRAでも関西を中心に騎乗していた。私はその騎乗っぷりに惚れ、以前から安藤騎手を応援している。(武豊騎手が一人突っ走ったのでは競馬が面白くない。)ダービーでは道中うまく折り合いをつけ、4角から直線では外目に持出しキングカメハメハの鋭い末足を披露した。少々仕掛けが早く見えたが、最後はキングカメハメハの底力で押し切った。それにしてもアグネスフウジンの持つダービーレコードを2秒も更新するとは・・・いくら馬場状態が良いとは言ってもこれはすごい。NHKマイルカップからダービーの路線はよほど実力がないと選択できないだろう。その意味からもこの馬の底知れぬ強さには感服する。 一般的に競馬では”馬7、人3”と言われる。今回のダービーを見ると、その”人3”の中でもキャリアの差が微妙に結果に効いたのではないだろうか?

 これで春の3歳クラシックは終わり。さて秋の勢力分布はどうなってるだろうか?コスモバルクの力もこんなものではないと思う。一方、キングカメハメハは早くも凱旋門賞という声もある。国内でのビッグレース、天皇賞、JC、菊花賞、有馬記念・・・今後どこを目指すかはわからないが、順調に夏をすごして欲しい。そして再び
2頭が大舞台で激突するのを楽しみにしている。
ペンペン草