トップ アイコン
次の段ヘ

トップ アイコン
ペンペン草
トップヘ

トップ アイコン
前の段ヘ

第62段      * 堀江氏の野望 その1 − 堀江氏の行く末は? − *

 
ライブドアの堀江社長がまたまた世間に話題を振り撒いている。2月8日ライブドアは「東証(東京証券取引所)2部上場のニッポン放送の株式を35%(2月10日現在約38%)取得した」と発表した。過半数には達していないが、全発行株式の1/3を超えていることに大きな意味がある。1人の株主が1/3以上を所有すると株主総会で重要事項に対する拒否権を行使できる。つまり経営権に強い影響力を有しで、企業の行く末を左右できるほどの影響力を持つ。

 実はニッポン放送の株を巡っては、
フジサンケイグループの中核企業フジテレビジョン(以下フジテレビと記す)が株式公開買い付け(TOB)を行なっている最中なのだ。ややこしい話だが規模の小さいニッポン放送がフジテレビの株22.5%を保有する筆頭株主になっている。フジテレビはニッポン放送の50%以上の株式取得して連結子会社化し、経営体質を磐石なものにしようと考えていた。そこにこの降って湧いた様な話が突然出てきたのだから、フジサンケイグループの経営陣はかなり面食らったことだろう。それにしてもフジサンケイグループは堀江氏の動きを何も察知できなかったのだろうか?とすればちょっとだらしないのではとも思える。

 ライブドアは2月7日までに市場でニッポン放送株を取得し5.4%に保有比率を引き上げた。更に2月8日早朝『
時間外取引』で機関投資家から一気に29.6%を買い付けた。 『時間外取引』・・・通常の取引時間ではなく早朝や夕方などに大量の株式売買を1度に行なう・・・は特に珍しいことでもないそうだが、通常の取引時間帯を避けることでは一種の奇襲戦法とも言える。違法行為ではないが使い方によっては危うい結果を招く危険な武器ともなり得る。但し、売却元と売却先が事前に協議(合意)して『時間外取引』を行なえば違法となる。今回の場合もライブドアと売却元との間で事前の協議があったかどうかが焦点となる。あんな短時間に極めて大量の株式売買が事前の取り決めもなしに行なわれる”とは私には到底考えられない

 朝日新聞によると「経営権取得目的の場合には、『時間外取引』であってもTOBに準じて透明性が必要と金融庁は判断し規制を検討している」と報じている。経営権取得などの為に市場外で上場株式の1/3以上の取得を目指す場合、原則として買付け株数や価格などの条件を事前に公表するTOBを義務づけている。しかしながら『時間外取引』については市場内取引のためにTOBの対象にはならない。
今回ライブドアは”法の盲点”をついてニッポン放送株の大量取得した。『時間外取引』は生命保険会社などの機関投資家が大量の株式を効率よく売買する為に通常の取引時間とは別に設けられた制度で、特定の投資家による「相対取引」の色彩が強い。今回の様な使われ方を想定していなかったのだが、やはり”取引の公正さ”を確保する為には何らかの規制が必要と考える。

 当初フジテレビはあくまでも50%以上の取得を目指していたが、実現不可能と判断して
25%以上取得の方針に切替えた。しかしながら決して諦めたわけではない。この25%の意味合いは何か?商法では次の様に規定している。株式を持ち合っているのがA社、B社とする。A社がB社の株式を25%以上保有すると、B社はA社に対する議決権を失う。今回の場合フジテレビが25%以上取得すると商法の規定に抵触し、ニッポン放送はフジテレビジョンへの議決権が行使できなくなる。つまりライブドアがニッポン放送の経営権を掌握した場合の対抗策を執っているとも言える。

 更に西武鉄道の問題の時にも出てきたが、このまま
ニッポン放送株の買収劇が進んで行くと上位10の大株主の累積保有比率が80%を超えることになる。そうすると証券取引所の上場基準に抵触し、ニッポン放送は上場廃止に追い込まれることになる。すると株は今までの様に自由に売買できなくなる。投資家にとっては大きなマイナスとなる。西武鉄道がどうなったか考えて頂きたい。堀江氏はニッポン放送の株を自由に動かせなくなる。そればかりか上場廃止となれば株価の暴落は必定、堀江氏は大損する可能性がある。フジテレビの狙いの一つはそこにもある。

 堀江氏は外国投資系銀行から事実上多額の借金をして今回のフジサンケイグループへ挑んでいる。過去にソフトバンクの孫正義氏は同じ様にテレビ朝日に挑み筆頭株主になったが、国内の猛烈な反発に合い結局株を手放し撤退している。日本国内ではこの様な形での買収は難しいと言われている。堀江氏自身も「大きなカケ」と言っている。吉と出るか、凶と出るか、現時点では予測がつかない。大げさかもしれないが、
堀江氏は”人生最大の分岐点”に直面しているとも言える。

 現時点では両者が目一杯張り合っていて、今後どの様な展開になるかは予断を許さない。ライブドアはフジテレビジョンに対し業務提携を呼びかけているが、フジテレビジョンは今のところ全く応じる気配はない。フジテレビからすれば今回のライブドアの行為は”敵対的買収”であり、何が何でも守り抜くと言う姿勢を見せている。ライブドアは50%以上を目指し、最終的に株式取得率がどこまで伸びるのか?フジテレビはTOBの期限を3月2日に延期して25%以上を狙っている。

 
ニッポン放送の株価が今後どの様に推移するかも注目される。2月8日に一時8800円の高値をつけたが、フジテレビが上場廃止を睨んだ動きを見せ週明けには大幅下落するかもしれない。もしそうなった時にはどの様な影響が出るのだろうか?(2/15終値は6640円と値下がりしている。)大量の売りが出て両者の奪い合いにでもなるのだろうか?また少し前の筆頭株主M&Aコンサルティングの18.6%の株が現在どうなっているのか分からない。既にどこかへ売却済みなのか、それともまだ所有しているのか?この事実関係によっては事態の推移に何らかの影響を与えることもあり得る。

 堀江氏はTOBには応じずニッポン放送株を長期保有するとしている。言葉通り頑張ることができればフジテレビジョンは容易にライブドアを排除できない。もし事態が長期化してその間にニッポン放送が上場廃止になったとしても、堀江氏が50%以上の株を取得して経営の実権を握る可能性もある。


 ところで
今回堀江氏がニッポン放送株買収の為に調達した資金は約800億円!その内約700億円!を今までに実際に使用している。ライブドアの経常利益は約100億円、その8倍もの資金を調達したのだからとてつもない話。2/8の大量買収時にはリーマン・ブラザーズ証券から約588億円調達したと報じられている。さて堀江氏はこんな巨額の資金をどの様にして調達したのだろうか?その謎を紐解いてみる。

 
転換社債型新株予約権付社債(以降「MSCB」と記す)』を堀江氏は有効活用した。。MSCBとは、Moving Strike Convertible Bond 。これが所謂”金のなる木”にもなり得る。2001年商法改正に伴い新株予約権制度が創設された。「MSCB」というのは端的に言えば「いつでも株に換えられる債権」という事になる。堀江氏はこの「MSCB」を有効活用して今回の大勝負に出た。吉と出るか、凶と出るか?

 企業の資金調達には大きく括れば2通りある。一つは銀行からなどの借入金、つまり借金で必ず返さなければならない。もう一つは株式などの出資金、これは返す必要がない。
「MSCB」はこの両者の中間に位置する方法と言える。これは基本的には借金だが、貸した側には2つの選択権がある。一つの選択としては先ほど書いた様に貸し手はいつでも債権を取得した時の価額に見合う分の株式を取得できる。そして株価が債権取得時よりも高い時に売却すれば差益が得られる。(逆に値下がりして損失となることもあり得るが・・・。)株式に転換された場合は借り手は返す必要はない。それではもし株価が上昇しなければどうか?もう一つの選択として貸し手はその時は売却せずに”じっと我慢の子”を決め込むしかないが・・・。満期が来れば社債を全額償還しなければならない。また当然全期間定められた利率で配当金が得られる。この場合は借り手にとってはもろに借金となる。


 
「MSCB」を発行する借り手から見れば、貸し手により株式に転換される迄は借金にすぎず返済を続けなければならない。結果的に短期の借り入れ(2〜15年程度)となり高いリスクを背負うことにもなる。一方貸し手にとっては「MSCB」は有利な側面があり、その為に利率が低く抑えられるデメリットを貸し手は負うことになる。早い話が両者にとって「MSCB」は一長一短のある金融商品と言える。

 「MSCB」は将来株式に化ける可能性があるので、結果的に増資と同じことになり得る。単純に考えれば利益が変わらないとすれば1株あたりの配当が減ることになる。すると株価の値下がりとなり株主は損失を被る。一方「MSCB」の発行で得た資金を上手に活用し大きな利益を得れば逆の現象となる。つまり株価上昇で株主は大きな利益を得ることになる。

 今回
堀江氏はフジサンケイグループに対し強気の勝負に出た。恐らく日本的な”事前の根回し”なしの相手から見ればまさに『敵対的買収』そのもの。リスクを冒して敢えて大規模な『敵対的買収』に出たのは堀江氏なりに勝算があるのだろうか?堀江氏はここまで順調に業績を伸ばしてきた。今回成功すれば今までとは比較にならないほどの飛躍的な業績向上に繋がる可能性がある。反面”ハイリスク・ハイリターン”の裏返しで致命的なダメージを負う可能性も大きい。堀江氏の思惑通りにコトがすんなり行くとは思えないが、果たしてどうなるだろうか・・・?

 前回のプロ野球参入問題では、ライブドアは既存の勢力に果敢に挑戦した。楽天に敗れはしたものプロ野球界の古い体質にくさびを入れたことは評価できる。腐りきった野球界に新風を吹き込むとして世間の支持を集めた。ただ今回の場合は果たしてどうだろうか?
ライブドアのニッポン放送買収の狙いがプロ野球参入の時とは異なり極めて分かりにくい。つまり何の為に、そして何をしようとしているのか明らかになっていない。そんな見えない状況では世間の支持は集まらない。

 それに日本には強い外資アレルギーが存在する。
資金調達先をその外資系に頼り、更に前述の様に強引な『敵対的買収』と来れば国内にどの位の味方がいるだろうか?成功すれば守旧派を打ち破ったと評価されるかもしれない。しかしながらもし成功したとしても今回相当な数の敵を作っており、そのまま将来に亘り順風満帆の事業展開が進むかどうかは定かではない。また今回の強引とも言えるやり方には多くの反発があり、失敗すれば「それ見たことか」と集中砲火を浴び一気に壊滅する可能性もある。

 ここに至っては
最早堀江氏には退路はない。0と1しかない、つまり中間のない大成功か破滅のいずれかの道を堀江氏は歩んでいる様に見える今後どうなるにせよ、当面事態の推移を外野から眺めて行くしかない。


(2005.06.22追記)

 今日の参院本会議で上場株式の『時間外取引』を規制強化する改正証券取引法が可決成立した。上場企業の経営権取得を目的として発行済み株式総数の1/3以上を買い付ける場合は『時間外取引』でもTOBが義務付けられる。これで2月にライブドアが『時間外取引』を使い経営権取得を目的としてニッポン放送株式を大量取得するケースが防止できる。

 今回の堀江氏のとった行動の中で『時間外取引』の悪用が最も不愉快な行為であり、当然早く規制されるべきと考えていた。堀江氏はまた法の不備を突く様なことを考えているのだろうか?もしその様なことを考えているとすれば確信犯的な所業であり、決して許されるものではない。法に触れなければ仮に脱法的な行為であっても何をしても良いとの発想は如何なものだろうか?
ペンペン草