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第71段    * 堀江氏の野望 その4 − 仮処分決定 まずは堀江氏有利に − *

  2005年3月7日締め切られた
フジテレビによるニッポン放送株式のTOBは36.47%(議決権比率で39.26%)を取得で成功した。最低目標値の25%どころか狙いの1/3超を達成し、ライブドアによるニッポン放送の経営を制限できることになった。堀江氏は「フジテレビが40%程度確保することは想定内とし、50%超を目指し更に買い増しを続ける」と述べている。この時点ではフジテレビが有利になったと見られていた。しかしながらフジテレビを引受先とした「新株予約権」の発行差止めの仮処分審理の行方が今後の流れを大きく左右することは間違いない。

 2月23日フジテレビとニッポン放送がライブドアへの対抗策として、フジテレビを引受先とした「新株予約権」発行を発表している。それに対して翌日ライブドアは発行差止めの仮処分を申請していた。3月11日午後5時過ぎに
東京地裁はライブドアの主張を認め、ニッポン放送の「新株予約権」発行の差し止めを命ずる仮処分を決定した。ライブドアが5日以内に保証金として5億円を供託することにより決定が有効となる。これで形勢はまずは堀江氏に傾いてきた

 但しこれで終わった訳けではない。ニッポン放送は即日東京地裁に保全異議を申立てを行ない、改めて別の裁判官により発行差止めの仮処分審理がなされる。東京地裁の決定の如何に関わらず、高裁・最高裁まで争われることは必至。仮処分の最終決着はまだ暫く先になるが、「新株予約権」の発行予定の3月24日より前には少なくとも高裁決定が出ると思われる。

 東京地裁がライブドアの
仮処分申請を認めた理由は何だろうか?要約すると以下の通り。

 ・第三者への有利発行に該当すれば株主総会の特別決議がない今回の発行は商法違反になる。今回の場合「
発行価格の算出方法について明らかに不合理な点は認められない」として第三者への有利発行とは言えない。

 ・「
新株予約権発行が現経営陣の支配権維持を主要目的としている場合は、発行を正当化する特段の事情がなければ商法に定める不公正な発行に該当する」との判断基準を示している。現在のニッポン放送経営陣の地位保全を目的としているとは言えない。しかしながらニッポン放送はフジテレビによるニッポン放送子会社化の目的を達成する為の手段として「新株予約権」を付与している。フジサンケイグループに属する経営陣による支配権維持を目的としていると言える。

 ・
企業価値棄損防止の手段として「新株予約権」発行を正当化する特段の事情があることを示す為には、「ライブドアによる支配によりニッポン放送の企業価値が著しく棄損される」ことが明らかにされなければならないとしている。ライブドアの支配によりニッポン放送の売上げ減少、ブランドイメージの低下、人材(従業員)の流出などの状況になるかどうかは明らかではない。必ずしもライブドアの試算通りに売上げ増加、株価の上昇が見込めるとは言えない。しかしながらネット利用者の格段の増加などを状況を考慮すると、今後インターネットとラジオの融合による事業拡大の相乗効果が期待できないことはなくライブドアの事業計画に合理性がないとは言えない。よって企業価値の著しい棄損が明らかであるとは認められない

 ・ニッポン放送は「ライブドアがInternetでアダルトサイトを運営していたことや堀江氏の言動から、放送の公共性を守る為に排除すべき」と主張している。これは
堀江氏の発言の片言隻句をとらえたに過ぎず、ライブドアがニッポン放送の支配権を獲得しても放送の公共性が失われるとは認められない

 ・ライブドアが『時間外取引』で証券取引法に違反してニッポン放送株式を取得したことへの防衛策として、ニッポン放送は「新株予約権」を発行したと主張している。市場の一般投資家が会社の支配価値の平等分配に預かる機会を失う結果となり、TOBの手続きで行なうべきとの批判も可能。しかしながら
『時間外取引』は明確に規制されていないので現行法の下では違法とは言えない

 これを見るとニッポン放送の主張はほとんど退けられている。ほとんどライブドアの全面勝利と言える。
フジサンケイグループは厳しい状況に追い込まれ、3月24日の発行予定日に向けて裁判対策の練り直しが必要になっている。決定理由の中に”企業価値棄損防止の手段として「新株予約権」発行を正当化する特段の事情”とある。”特段の事情”がちょっとした曲者かもしれない。特段の事情?これはニッポン放送が”ライブドアによる支配がニッポン放送の企業価値を棄損”することを立証できれば、裁判所の判断が覆る可能性があるとも解釈できる。恐らくフジテレビとニッポン放送はこの点に気づいているはずで、”特段の事情”を立証する為に頭を捻っているものと思われる。

 
『時間外取引』についての判断は裁判所の突っ込みが足りないと考える。「市場の一般投資家が会社の支配価値の平等分配に預かる機会を失う結果となり、TOBの手続きで行なうべきとの批判も可能」との疑念を示してはいるが、結局は現行法での規定がないことを理由に違法ではないとしている。ライブドアはTOBと言う正規の方法があるにも関わらず、法の抜け穴と言える『時間外取引』を利用した”TOBまがい”の行為をしている。明らかに”確信犯”であり、明確に違法とは言えなくても脱法行為をしていると看做せる。やはり裁判所は厳しく糾弾すべきである。何故TOBと言う正当な手段を使わなかったのか?堀江氏は証券市場を軽んじた面がなかったかどうか、自らの行為を見つめ直すべきであろう。

 裁判所は「折角TOBの手続きで行なうべきとの批判も可能」とまで言っていあるのだから、法の不備を指摘した上でライブドアの今回の行為は違法性が高いとの判断を示すことができなかったのだろうか?
あまりにも馬鹿正直に現行法を捉えすぎているのではないだろうか?確かに裁判所は現行の法律を厳格に適用すべき立場にある。しかしながら今回の様に法の不備がありその行為に疑念があっても、法に規定されていないからと言って何のお咎めなしではあまりにも能がなさすぎる。今回の東京地裁の決定理由は私が事前に予想していた理由にほぼ近い。但し『時間外取引』に関する判断については全く納得できない。

 今回「新株予約権」発行差止めが認められたことで、ニッポン放送は裁判と並行してライブドアが『時間外取引』で取得したニッポン放送株式の名義書換え拒否を真剣に検討すると思われる。株式の名義書換えができなければ折角購入しても株主としての議決権が行使できない。そう簡単に思惑通りコトが運ぶだろうか?ライブドアが名義書換えを求めて提訴するのは明らか。そうなればまたまた司法の判断に委ねられることになる。ニッポン放送には、「時間外取引で購入した株券の選別」、「ライブドアの『時間外取引』の違法性立証」などの説明が要求される。但しこのままライブドアによる仮処分申請が確定すると、ライブドアの『時間外取引』でのニッポン放送株式取得が違法ではないとしているので名義書換え拒否は困難かもしれない。

 ライブドアが議決権ベースで50%超のニッポン放送株式を保有しても、現時点では臨時株主総会を招集して取締役の解任はできない。ところが今年6月の定時株主総会で全ての取締役が任期満了となる。今年3月末時点でライブドアが50%超を確保していれば、株主総会の普通決議で取締役の総入れ替えが可能になる。ライブドアは取締役会を掌握することで経営の実権を握り、ニッポン放送株式の第三者割当増資を行なう考えと報じられている。

 
その狙いは何か?第三者割当増資で
フジテレビの保有比率を25%以下に下げれば、ニッポン放送のフジテレビへの議決権が復活する。フジテレビのTOB成功が無意味になってしまう。更に増資で得た資金を基にフジテレビの発行株式の25%超を取得すれば、フジテレビのニッポン放送への議決権が消滅する。そうなれば有効な議決権数が減少し、結果的にライブドアがニッポン放送株式の2/3超の保有となる可能性がある。ライブドアはフジテレビの経営への影響力は持つことができないが、ニッポン放送の単独で経営の実権を握ることができる。

 しかしながら
この行為はライブドアが仮処分申請した今回の場合と全く逆と言えるのではないだろうか?ライブドアによる”ニッポン放送の支配権維持が目的”と看做されて増資差止めとなると思われるが・・・?堀江氏は第三者割当増資の合理性、資金調達の必要性を証明できるのだろうか?そう簡単に何でも堀江氏の思い通りに行くとは思えないが・・・?

 強硬な対決が続く一方、フジテレビの日枝会長は「新しいアイデアがありメリットが出てくれば、フジテレビの株主価値を高めることになる。ライブドアと事業提携をすることはやぶさかでない。」と話している。
 東京地裁の仮処分決定を受けて少々軟化しているともとれる。しかしながら事業提携の目的や手法などで両者の隔たりは大きい。ニッポン放送の新株予約権発行を巡る裁判が最高裁まで、更に本訴にまで発展する可能性もあり、仮に両者が協議を開始したとしてもそう簡単に決着が着くとは到底思えない。

 週明け(3月14日の週))のニッポン放送の株価の動向が注目される。「新株予約権」発行が差し止めが認められたので恐らく上昇すると思われる。3月11日時点でライブドアは議決権ベースで47%超のニッポン放送株式を取得したと見られている。株価の上昇は買い増しを進める為にはより多くの資金を必要とする。目標とする50%超取得はこれからかなり大変になるかもしれない。

 あまりにも醜い争いが延々と続くと世論も両者に冷ややかになって来るだろう。
どこか落とし所を探り収束に向けて両者が努力を始める時期ではないだろうか?”株主の利益”と言いながら自らの利益の為だけに奔走し、一般株主をないがしろにしている様にしか見えない。両者共にいい加減に頭を冷やして冷静な対応をして頂きたい。
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