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第81段    * ライブドアの成長手法 − 株式分割、その魔力と危険性 −

 堀江氏が9年前前身の有限会社「オン・ザ・エッヂ」を出資金600万円で設立してから、短期間の間に買収を繰り返し資産総額2000億円を超える企業に急成長した。2004年2月にライブドア社を買収し、自身の社名を株式会社「ライブドア」に変更した。どの様な手法を用いてこれほどまでに急成長することができたのだろうか?『株式交換』、『株式分割』・・・特に『株式分割』を有効活用して「ライブドア」はまるでバブルの様に膨張して来た。それでは『株式交換』、『株式分割』とは何か?

 『
株式交換』・・・買収先の株式を現金で購入するのではなく、対価に見合う分の自社の株式と交換する。その為手持ちの資金が少なくても買収することができる。買収先の企業の規模が大きくない場合、自社の経営権に影響を与えることがない程度の株式を買収先に提供するだけで可能となる。謂わゆる”大が小を呑み込む”形になる。この株式交換でライブドアは「ターボリナックス」、「ロイヤル信販」などを連結子会社化している。

 『
株式分割』・・・株価が高騰し投資家が入手しづらくなった場合や他の企業との合併準備工作などにこの手法が用いられる。市場で株式の売買がしやすくなり、株式の流動性向上と株主数の増加が期待できる。株式の総数は増えるが企業の資本や資産は変化しない。NTTドコモの1:5(1株→5株に分割)、NTTの1:1.02、日本オラクルの1:2など数多く行なわれている。

 
ライブドアの場合過去に4度株式分割が行なわれている。2001年5月28日に1:3、2003年6月25日に1:10、2003年12月25日に1:100、2004年6月25日に1:10で、これにより何と株式総数は30000倍!に増加した。それにしても計30000分割とは・・・こんな極端な株式分割は他に例を見ない。単純に考えれば企業価値が変わっていないとすれば、この場合株価は理論的には1/30000にまで下落するはず・・・。

 ところがそうは簡単には行かない。『株式分割』を行なう企業は業績好調で理論値まで下落しない場合が多い。分割により株価が安くなり投資家にとっては手頃で買いやすくなり、それに伴い当然買い注文が増加することになる。しかしながら『株式分割』後に新株式を株主が手にするまでには通常50日程度かかる。その間にも買い注文が出てくるので需給のバランスが崩れて、株価が一旦下落するものの多くの場合その後上昇に転ずる。結果として時価総額(株価x発行済み株式)が株式分割前より膨れ上がることになる。何にも変わっていなくても見かけ上企業価値が増加することになる。

 ライブドアの場合、2003年12月25日の1:100の分割後に1500円超えの急上昇したがその後600円付近まで下落した。2004年6月25日に1:10の分割を実施すると1000円位に急上昇、その後に640円での公募、そして今年2月の800億円のMSCB実施後4月には293円と分割後最安値を記録している。7月1日現在397円と底値より100円ほど回復しているが、それにしてもここの株価は何という荒っぽい動きをするのだろう。短期間にいろいろと仕掛けてくれば大波小波で浮いたり沈んだりしても当然と言えば当然だが・・・。怖さも充分にあるが逆に短期的に利ザヤを稼ぐ狙い目とも言える。ただ”丁半博打”の様な危険な側面があり、一般的には手を出さない方が懸命かもしれない。

 
ライブドアは株式分割の利点を充分に生かし半ば常識外れとも思えるやり方で時価総額を増加させた。ともかく資金調達が容易になり、豊富な資金力を活用して更に買収を進め拡大路線を突っ走ってきた。堀江流錬金術の一つと言えるのではないか?そして今度はは「MSCB」を使って800億円+αを調達し、ニッポン放送、更にはフジサンケイグループの買収と言うとてつもない野望に挑戦した。しかしながら約1470億円の巨額の資金と引き換えに堀江氏は自らの野望を捨て去る結果に終わった。フジテレビとの騒動で「ネットとメディアの融合」と大言壮語したわりには結果的に狙いに対しては尻つぼみに終わり、単なる”グリーンメーラー”とのイメージが堀江氏には憑いて回っている。それに株価が上昇してくれば「堀江氏がまた株式分割、MSCBなどをやって来るのでは?」との疑念は多くの人が抱いている

 フジテレビから巨額の資金を得たもののその見返りとして大量の増資をすることなり、株式数は約10億4900万株に膨れ上がっている。このツケはライブドアに重く圧し掛かっている。今後株価を安定的に上昇させるのはなかなか容易なことではない。
巨額の増資に見合う投資案件を見出して利益を確保しなければならない。しかしながら失った信頼回復には長い”茨の道”が立ちはだかっている。今まで出てきている材料はどう見ても小物ばかり・・・約1470億円の巨額の増資に見合うものとはとても言えるものではない。堀江氏が国内で簡単に大物をGetできるほど状況は甘くない。すると海外・・・?6月28日に堀江氏はロシアに行っているが、お好きな”宇宙ビジネス”?などの声も聞こえてくる。いずれにせよライブドアからどの様な大物投資案件が出てくるのか注目される。

 ところで
シーマ(宝飾業)は株式分割とMSCBをセットで実施して問題を起こした。今年2月4日にJASDAQは「シーマが適切な情報開示をしていない」として監理ポストへの割当てを通告している(7月1日現在まだ解除されていない)。この事例を見ると如何に悪質な行為がなされたかよく分かる。そのあまりのひどさに呆れ果ててしまう。詳しくは ここ を参照されたい。

 シーマは2004年10月25日に25億円のMSCBを発表している。その後今年1月26日に1:101の株式分割し直後3営業日続けてストップ高で株価は110円まで上昇した。2月1日以降MSCBの権利行使価額は9円30銭と定められている。そこで2月1日にMSCBの権利を行使した特定の第三者が、2月2日以降大量の売りを浴びせて
株価は大暴落した。7月1日の終値は18円をつけている。

 2月2日には終値は41円をつけているが、この日3回合わせて1450万株の大量の売りが浴びせられている。この日の出来高は9424万7264株、発行済株数155億6893万4000株の6%にあたる。1:101の分割なので子株拘束期間中は1%程度の株式しか売買できず6%にも相当する出来高は考えられない。明らかにMSCB権利行使を有する第三者が動いたと看做せる。この第三者は9円30銭で株式を取得しての高値売却だから、この日1日で巨額の利益を得たのは間違いない。2月4日(金)の夜に監理ポストに移されるまでに、この第三者はいったいどれだけの利益を得たのだろうか?
明らかに特定の第三者への利益供与と看做され犯罪行為に等しい。株式分割とMSCBを組み合わせればこの様な事態が起き得ることは容易に想像できたはず・・・シーマ経営陣は果たしてどの程度の認識があったのだろうか?知らないはずがないと思うが・・・?

 レストランなどの直営、並びにフランチャイズ事業を展開している「ゼクー」は6月15日に破産手続き開始が決定され、更には6月30日には上場廃止に追い込まれた。ちなみに最終取引日(6月29日)の終値は2円となっている。2004年10月26日に1:100の株式分割を実施、連日ストップ高と『株式分割バブル』の様相を呈した。分割直後には7700円位つけたが、その後他の株式分割同様株価を下げ300円前後で推移していた。経営陣の内紛で混乱が続き更に架空増資の疑いが出てきては末期症状を呈し、ついには破産の最悪の事態に立ち至った。マザーズ初の倒産銘柄の不名誉と言うことになる。株式分割がゼクー破綻の直接原因ではないかもしれないが、投資家にとっては株式が紙くずになってしまったのだから迷惑以外何者でもない。これも特異な例かもしれないが、株式分割の危険な側面を顕著に示していると考えられる。株式分割は”魔法の手”であるが、同時に”麻薬”の危険性をはらんでいる

 ところで直近の事例としては、
プラネックス・コミュニケーションズ(以降プラネックスと記す)が2005年6月30日に1:5の株式分割を実施した。また既にライブドア証券を引受け先とする総額20億円のMSCBを発行する(詳細は こちら 参照)。シーマの事例同様株式分割とMSCBがセットになっているので要注意銘柄と言える。何せエフェクターで恥を晒しているライブドア証券が1枚絡んでいるので危険な香りが漂う。リーマン・ブラザーズに大儲けをさせたライブドアグループが今度は自分達も同じ甘い蜜を吸おうとの魂胆が見て取れる。

 予想通りプラネックスの株価は急上昇し、7月1日の終値は22万円をつけている。修正転換価額の下限は6万8000円、上限が20万4000円と定められている。子株拘束期間中、即ち需給が逼迫している内にMSCBを株式転換し高値売却を目論むかもしれない。株式分割、そしてMSCBで暴利を貪る悪質な手口・・・何せあのライブドア証券が引受け先、この位のことなんぞ平気でやりかねない。その先には株式の希薄化、株価下落の罠が待っているかもしれない。MSCBの初回転換価額修正はまだ暫く先、当面株価がどの様に変動するか監視して行くことにする。(補足情報:9月2日時点では17万6000円まで下げている。)

 シーマ、ゼクーの事例は特異かもしれないが、この様な不正行為がなされたら一般投資家はひとたまりもない。欲に目が眩んだ悪い輩が何をしでかすか分からずない。近頃安易に株式分割を行ない株価上昇を狙う企業が目立っている。企業の実力以上に株価が上昇するのは良いことではない。まかり間違うと破綻し、株主、取引先などに多大な迷惑をかけることにもなりかねない。常に監視の目を光らせて不正行為を未然に防止しなければならない。証券取引所は上場企業に対して株式分割に慎重な対応を求めているが、要請だけでは果たして効果があるのだろうか?株式分割、特にライブドア、シーマの1:100級の大型分割には要注意で、不正の温床でありやはり何らかの法規制をしないとまた同じことが繰り返される

(2005.09.12追記)

 今年の3月7日に東京証券取引所から上場会社代表者に対し、『大幅な株式分割の実施に際してのお願い』を送付している。シーマが不祥事で監理ポストに割り当てられた時期に符合する。その趣旨を要約すると以下の通り。

 
1. 株式数が株式分割前の5倍を超えることとなる株式分割(1:5分割超)の自粛
 
2. 株式分割後の投資単位が1万円を下回ることとなるような株式分割の自粛
 
3. CB発行後6ヶ月程度の間は株式分割の実施を極力自粛

 
この要請後1:5を超える株式分割が出ていないところを見るとそれなりに効果が出ている。しかしながらプラネックス・コミュニケーションズの様にMSCBと株式分割(1:5)をセットにして実施しているところがある。やはりお願いでは強制力がなく弱いところがある。金融庁が株式分割権利落ち日から効力発生日(実際に新株式が交付される日)までの期間大幅短縮を盛り込むなどの対策導入を目指している。過熱気味のマネーゲームを沈静化させる為にも、取引の自由度を損なわない程度に株式分割を(法的に)規制する必要あると考える。
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