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第40段  アテネ・オリンピック 女子マラソン代表決定 * 妥当な選考結果 *

 2004年3月14日アテネオリンピック予選を兼ねた名古屋国際女子マラソンが行われ、土佐礼子が2時間23分57秒のタイムで優勝した。土佐は日本人トップ、かつ2時間26分を切るという条件を満たした。この段階でアテネ・オリンピックマラソン女子代表の残る2つの座は混沌としてきた。土佐と大阪優勝の坂本直子、東京で2位の高橋尚子の3人が有力候補になっている。

 ・実績では高橋が抜群、しかし東京で2位、タイムは3人中3番、但し気温24度に強風の悪条件。
 ・土佐は名古屋で優勝、ダイムは3人中1番、気温18度弱で弱風の比較的好条件。
 ・坂本は小雪が舞う気温4度の悪条件下の大阪で優勝、タイムは3人中2番

 3人それぞれ1長1短あり比較が難しい。選考会のレース結果重視か、はたまた過去の実績重視か、
翌日の代表発表が大いに注目されることになる。

 従来
名古屋は時期的に気温が高く、風も強く速いタイムが出にくいコースと言われている。それを見越して高橋は”名古屋欠場”を決めたのだが・・・。レース当日名古屋は気温もそれほど上昇せず、風も弱く名古屋としては絶好のコンディションの恵まれた。この思わぬ好条件が高橋陣営の思惑をくじくことになる。有力処では土佐、田中めぐみ、昨年優勝の大南敬美の名が挙がっている。過去の実績から高橋に比べて”役者不足”と見られ、「高橋有利」との下馬評であった。

 序盤は比較的ゆったりしたペースであったが、途中から速い展開になり30Kmすぎで土佐と田中の一騎打ちの様相を呈してきた。32Km付近で田中がスパートすると土佐はついて行けず、一時は8秒差にまで広がり大勢が決した様に思えた。土佐の足どりが重く見えもう余力無さそう・・・。ところがここからドラマが起きる。土佐がじりじりと田中との差を詰め、37Km付近で並ぶ間もなく一気に差し返し更に差が開いていく。
土佐の恐るべき粘り、「アテネへ行きたい」と思う執念が彼女に活力を与えたのであろう。結局土佐が2時間23分台で1位、この時点でオリンピック代表候補の仲間入りした。

 名古屋の結果は高橋と小出監督を震撼とさせたことだろう。よもや名古屋がこれほど好条件に恵まれ土佐が好走するとは・・・。それでも高橋陣営は過去の実績が”モノ”を言って代表に選ばれると確信していたはずである。実際過去に瀬古、有森、弘山の場合の様に過去の実績が重視されて代表に選ばれたことがある。高橋は記者会見で「走っておけば良かったと正直思う。しかし自分で決断したので仕方ない。誰かを恨んだりという思いはない。」と述べている。それでも「名古屋に出ていれば・・・」との想い(悔い)は高橋の心から当面消えることはないだろう。高橋と小出監督の記者会見をTVで見たが、努めて冷静に、そして明るく振舞っていた。しかしながら2人の言葉の節々には無念の想いが感じられた。それはそうだろう。アテネ・オリンッピック出場、そしてオリンピック連覇の夢が絶たれたのだから・・・。私はそれほどの想いがあるならば高橋は「名古屋出場」を決断すべきであったと思う。”オリンピック迄の準備期間が短い”なんて流暢なことを言わずに、名古屋での直接対決で雌雄を決する覚悟が必要だった。世界最高記録所有者のラドクリフは日本の選考事情を知らないので、「何故名古屋に出なかったのか?」といぶかっているそうだ。今となっては全ては結果論である。

 大阪で大勢が好記録を出していれば、高橋は当然名古屋に出場せざるを得ない。通常は好タイムが出る大阪で予想外な結果に終わったことが、逆に高橋のアテネへの道を閉ざす結果に繋がるとは何と言う皮肉であろう。前述の様に高橋陣営は名古屋への出場を見送った。この時点で小出監督は「代表選考はまだわからない。ただ専門家が見れば誰が強いのかわかっている。」と言い切っている。第15段にも書いたが高橋への親心のつもりかもしれないが、
他の選手や監督に対して失礼、かつ不遜な発言である。たしかにマラソン日本最高記録保持者で7戦6勝の高橋の実績は自他共に認める日本No.1である。しかしながら小出監督にあからさまにこの様に言われると、へそ曲がりの私は反発を感じた。日本陸連の原案作成段階では高橋擁立は10人中1人だったそうだ。もしかしたら日本陸連関係者の中にも、一連の小出監督の発言を快く思わない人もいたのではないだろうか?”口は災いの素”とも言うが、今回ははたして・・・???

 
今回の選考基準は、 ”@第9回世界選手権でメダルを獲得した日本人最上位者”、 ”A選考会の日本人上位の競技者の中から本大会でメダル獲得または入賞が期待される競技者”である。@は単純明快で定量的な表現であり、これにより銀メダルの野口みずきが代表に選ばれた。さて曖昧なのがAの”メダル獲得または入賞が期待される競技者”・・・定性的で曖昧であり、選考過程に恣意的な要素が入り込む余地がある。また”選考会の日本人上位の競技者”も最上位に限らっておらず、複数の候補者の余地があり混乱の素でもある。それにメダル獲得または入賞が期待される”とは誰がどの様に判断するのか難しい問題である。過去の実績と選考会の結果を天秤に掛けて判断することになることが多い。それに両者の比重、優先度が不明(無い?)で主観が入り込む要素がある。建て前では”客観的に”判断すべきとは言えるがさて???

 
今回は選考会の結果が優先された。極めて当たり前のことである。何の為の選考会であるかを考えれば、まずその結果を先に考慮すべきであろう。今回は大阪で坂本が1位、名古屋で土佐が1位で東京の高橋は東京で2位の事実がある。つまり坂本、土佐は勝ち、高橋は負けたのである。今日の代表発表会見での沢木啓祐・日本陸連強化委員長によると選考理由は次の通りである。

  
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まず世界選手権2位の野口を1番手で選出した。次に世界選手権を含めた選考4レース中、最も速いタイム名古屋を勝った土佐を2番手で選出した。最後の1つ枠は大阪で2時間25分29秒で優勝した坂本と同2位の千葉、東京国際2位の高橋で対象とした。千葉は世界選手権では3位で坂本は4位。しかしながら大阪の直接対決では坂本が勝っている。ここで千葉は脱落。坂本の30Kmから35Kmの所要タイムは15分47秒と驚異的である。坂本は23歳の伸び盛り、本番に向けた期待感は一番持てる。そこで過去の実績では抜きん出ている高橋と坂本の比較になる。高橋はシドニーオリンピックの金メダリストで、女子マラソンで世界で初めて2時間20分の壁を突破した実績は文句なしに一番である。しかしながら高橋の東京で終盤に失速し大きく崩れたレース内容は、坂本の大阪の終盤での驚異的な種発力を見せた内容と比較してはるかに劣っている。

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野口、坂本、土佐いずれもオリンピックでメダルを狙える実力が充分にある。近年女子マラソン界の層は厚く、日本で行なわれる国際マラソンを見ていても安心して見ていられる。それほどの充実ぶりだから誰が参加しても期待が持てる。3人共に世界選手権上位入賞の実績がある。更に高速マラソンになった場合に対応できる様なスピードを身につけて欲しい。またオリンッピク独特の雰囲気、それからレース駆け引きに惑わされない様な強靭な精神力を持って欲しい。坂本23歳、野口25歳、土佐27歳の20台トリオの本番での頑張りに大いに期待するものである。

 沢木委員長は「東京と大阪のレース内容で比較せざるを得ない。高橋の実績は最大限尊重したが、その中で決断した」とも言っている。「選考会の結果」>「過去の実績」である。今回は実績を重んじる「専門家の目」という主観より、選考会の結果を優先する「客観性・公平性」が重視された。”今回は”と言うことは”次回はこの限りにあらず”と言うことである。選考基準が曖昧なこともあり、次回以降同様な場合に今回と同様な結果になるとは言えない。その時おかれている状況により恣意的な結論が出る可能性がある。日本陸連は毎回繰り返される”ごり押し選考”に対する批判を恐れたのだろう。とにもかくにも
今回は良識ある判断でホッとしている

 
”世界の顔”とも言える高橋を切るのはなかなか大変だったと思う。”高橋落選”のNewsは世界を駆け巡り、日本陸連には賛否両論の電話やMailが殺到したと言う。東京都町田市の三井住友海上合宿所には土佐への脅迫まがいの電話まで行ったと言う。逆の結果が出ていれば高橋に脅迫電話が行ったかもしれない。とんでもない輩がいることのにはあきれてしまう。少々大袈裟とも思える加熱報道を見るといささか興ざめな感のあるが、それだけ国民的関心が高いと言うことであろう。

 女子マラソンの場合代表枠が3なのに、選考レースが世界選手権、東京、大阪、名古屋と4レースある。条件の異なるレース結果の比較が難しい。
同一レースであれば結果が全てを物語り主観が口を挟む余地はないのだが・・・。何かうまい方法はないものか?”代表枠≧選考レース数”はどうか?これだとやはり選考基準が問題になる。それともアメリカの陸上、水泳の全米選手権の様に一発勝負が良いのだろうか?それに対して現段階では日本陸連は「その時だけたまたま調子が悪く、優秀な選手が除かれる可能性がある」と難色を示している。日本陸連の沢木委員長は記者会見で「選考基準、システムの見直しが必要かなと思う」と述べている。そう簡単に結論は出ないだろうが、ぜひとも今後の為に知恵を絞って検討して頂きたい

 私は今回の女子マラソン代表選考結果は妥当であると考えている。マラソン代表選考基準に曖昧さはあるものの、その基準に従い選考会の結果を重視して決定したことは充分に評価に値する。日本陸連は今まで様々な情実を考慮した選考により物議を醸している。その様なことが起こらないように日本陸連は一貫性のある態度をとり続けて頂きたい。過去の選考と比較すると一歩前進したと言える。更に誰しもが選考結果に納得できる選考方法の模索と実施を望む
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