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第48段 * 2004年囲碁界総括 ‐若手の台頭 ‐ * 

 
2004年もまもなく終わり、今年の囲碁界を振り返ってみる。今年の幕開けは第28期棋聖戦 山下棋聖(26)vs羽根天元(28歳)の20代対決。開始時点では山下棋聖(当時)の調子落ちが気になっていたが、いきなり3連敗したのには驚いた。まさかこのままでは・・・しかしながらギリギリで踏ん張って最終局にまでもつれ込むスリリングな展開となった。データ的には後から3連勝した方が断然有利、山下棋聖の逆転防衛かと思わせた。最終局はTVで見ていたが、挑戦者羽根天元の攻め合い1手勝ちという実にきわどい決着となる。羽根新棋聖の誕生がまず最初の大きな話題となった。最終局は見ている方としては実にハラハラドキドキの面白い1戦、しかし対局者はたまらない。勝負には明と暗は憑き物、この世界に生きていく者は当然のことながら強靭な精神力がなければ務まらない。羽根棋聖はこの後調子下降気味で、2004年12月10現在負け越している。12月になってからも名人戦リーグ入りをかけた最終予選決勝で、関西棋院の坂井秀至六段(京都大学医学部卒で医師を捨て囲碁界に飛び込み注目を集めている)に敗れている。新聞でこの1局を見たが、肝心なところで羽根棋聖らしからぬ敗着が出て自滅したようにも見えた。解説者によると今年はこんな負け方が多いと言う。年明け早々棋聖戦が始まり、関西棋院の結城聰九段の挑戦を受ける。羽根棋聖にとっては不安な要素が多いが、果たしてどうなるだろうか?遅くても3月中には結果が出る。

 
第42期十段戦には前年本因坊のビッグタイトルを獲得した張栩本因坊(25歳)が登場し王立誠十段(46歳)に挑戦した。王十段が貫禄を見せて3勝1敗で防衛したが、この後張栩本因坊が次々とタイトル戦に登場し囲碁界を席捲したのは周知の通り。まずは第59期本因坊戦で依田紀基名人(38歳)の挑戦を受け4勝2敗で初防衛を果たした。その後この2人は名人戦で再びタイトルを争っている。依田名人は張本因坊との対戦成績は歩が悪い。棋譜をみると相性の悪さが何となく感じられる。最高峰のレベルにあってもそこはやはり人間、何やら得体の知れない”何か”が微妙に働くのだろうか。 人は”感情の動物”、その感情をコントロールするのも実力の内。私のような凡人には到底及ばない世界なのだ。

 
第29期碁聖戦には山田規三生八段(32歳)が挑戦者として登場し依田碁聖に挑んだ。山田八段は第45期王座を獲得したことがある日本棋院関西支部の実力者。残念ながら3vs1で破れ2度目のタイトル獲得とはいかなかった。一方防衛した依田碁聖には息つく間もなく第29期名人戦でまたまた難敵を迎えることになる。

 
第29期名人戦で依田名人が迎え撃つ難敵・・・それはつい最近戦ったばかりの張本因坊。同一年に同一の顔合わせが繰り返すのは昔からよくある。坂田vs藤沢(秀)、趙vs大竹などなど・・・。その当時の旬であれば同じ人が何回も登場してくる。今年の旬はまさにこの2人であったと言える。依田名人が本因坊戦での敗戦をバネにして踏ん張れるかどうか注目された。この様なタイトル戦は挑戦者の方が気が楽、失うものは何もない。一方タイトル保持者はプレッシャーが大きい、つまり防衛すれば良いが負ければタイトルを失ってしまう。第4局からの張本因坊の3連勝で一気に決着がついた。依田名人にも勝機がある対戦も何局かあったが、ここぞというところでチャンスを生かすことができなかった。やはりなにか依田名人の張本因坊への苦手意識のようなものが感じられた。4勝2敗で張本因坊の名人位奪取となり、久しぶりの名人・本因坊の誕生となった。石田芳夫九段の名人・本因坊最年少記録を破っている

 第9段で
呉清源九段が昭和の棋士では最強と書いた。呉九段は台湾出身の棋士で、戦前から戦後にかけて果し合いとも言うべき打ち込み十番碁でことごとく相手を打ち負かした。打ち碁集を持っているが、その棋譜を並べているとその凄まじさにはたじろがされる。呉九段全盛時に現在の様にタイトル戦が数多くあれば一体いくつ獲得しただろうか?2004年11月に日本棋院に囲碁殿堂資料館が開設、本因坊算砂、道策、秀策、徳川家康がまずは殿堂入りした。来年は当然呉九段が顕彰されることだろう。NHK「囲碁・将棋ジャーナル」で張新名人の就位式が放映され、そこに90歳の呉清源九段のお元気な姿が見られた。呉九段が台湾で才能を見出して日本へ連れて来たのが林海峰名誉天元、名人、本因坊など数多くのタイトルを獲得したのは周知の事実。大相撲で言えば大鵬タイプ、その粘りは驚異の二枚腰とも言われている。その林名誉天元が台湾から連れて来たのが張名人・本因坊・王座、師匠譲りの柔軟な打ち廻しはまさに大器と言える。台湾出身の素晴らしい棋士の流れが綿々と受け継がれている

 
2004年の後半山下九段に復調の兆しが見えてきた。まず登場したのが第30期天元戦、昨年羽根九段にタイトルを奪取され今年はリターンマッチとなる。この対局も注目していたが、なんと山下九段の3連勝でのタイトル奪還というあっけない結末となった。棋譜を見ても羽根棋聖の精彩の無さが気になるのだが・・・何故か粘りがない様にも見える。年明け早々羽根棋聖は結城九段の挑戦を受けるが大丈夫だろうか?ほぼ同時期に山下九段は第52期王座戦で張王座に挑戦している。つい先日王座戦第4局が行なわれ張王座が勝ち防衛を果たした。山下九段は棋聖戦挑戦者決定戦で結城九段に敗れリターンマッチ登場とはならず悔しい想いをしている。このまま終わる山下九段ではないこれらの悔しさをバネに来年は大暴れすることだろう

 若手四天王(山下天元、張三冠、羽根棋聖、高尾八段)の一人、
高尾八段(28歳)は他の3人から一歩遅れをとっている。現在本因坊リーグにこそ名を連ねているが活躍の度としてはその実力からすれば今一息・・・何とか頑張って少しでも早く挑戦者として名乗りを挙げて欲しい。そしてタイトル保持者として名を連ねて欲しい。それだけの力量はあるはず・・・。

 一方ではかつて大三冠(棋聖・名人・本因坊)を何度も独占した趙治勲九段が無冠、そして現在は棋聖・名人・本因坊全てのリーグ戦から姿を消している。
栄枯盛衰は世の常であるが、ここにも時の流れを強く感じる。今や囲碁界の活躍の中心は既に20代の精鋭に移っている。将棋界でも「羽生世代」の次の世代の渡辺六段(20歳)が森内竜王にタイトル奪取まであと1勝と迫っている。囲碁界でも将棋界でも若い力の勢いは世間の注目を集めることになる。それに人気と実力を兼ね備えたスターの出現が更に人気を高める。かつての囲碁界で言えば呉九段、坂田九段、藤沢(秀)九段、林九段などなど・・・。現在の囲碁界にもスター性のある逸材が揃っているこれからの囲碁界にとり明るい未来が開けてくるだろう

(2004.12.12追記)

 今日のNHK杯は羽根棋聖vs坂井六段の対戦を放映した。最近名人戦最終予選決勝で両者の対戦があり坂井六段が勝っている。羽根棋聖としては雪辱を期したいところ。 中盤まで羽根棋聖がやや優勢と見えたが、坂井六段の勝負手、2線のオキから急転直下険しくなり大きな振り替わりとなった。結果的に羽根棋聖の損が大きく坂井六段の中押し勝ちとなった。 この1局の進行状況は名人戦最終予選決勝によく似ている。新聞の解説者が、「今年の羽根棋聖はこんなパターンで崩れることが多い」と書いていた。坂井六段の勝負手に冷静に対処していれば、また途中からでも軌道修正できていればいい勝負・・・しかしながら結果的に羽根棋聖が短気を起こした形で勝負がついた。いつも沈着冷静に見える羽根棋聖だがいったいどうしたのだろうか?今年初め棋聖位を山下前棋聖から奪取した時は羽根時代の到来かと思わせたが、その後天元位の失冠、名人戦リーグ入りならずなど調子は下降線をたどっている。年明け早々棋聖戦で結城九段の挑戦を受ける。 誰でも不調な時期はある。何とか立て直して棋聖戦での好勝負を期待している。

(2005.07.03追記) 2005年上半期のタイトル戦

 2005年も半分が過ぎて囲碁界の勢力分布にも変化が起きている。今年初めには
第29期棋聖戦が行なわれ関西棋院の実力者結城聰九段がもう一歩まで追い詰めながら、羽根棋聖が4勝3敗で辛うじて防衛に成功した。結城九段は研究熱心で着実に力をつけている。結城九段は依田紀基碁聖への挑戦を決めており、7月7日から第30期碁聖戦挑戦手合いが開始される。今度こそ結城九段のタイトル奪取を期待している。

 
第43期十段戦では久しぶりに古豪趙治勲九段が挑戦者に名乗りを上げ、3勝2敗で王立誠十段を下しタイトル奪取に成功した。趙十段のタイトル獲得数は68となり、坂田栄男23世本因坊の記録64を上回っている。まだ49歳、老け込む年齢ではない。タイトル獲得数を更に伸ばす可能性がある。趙十段の全盛時を知っている私としては更なる活躍を期待している。

 
第60期本因坊戦の挑戦者には”若手四天王”の一人高尾紳路八段がリーグ戦初参加で初挑戦、4勝1敗で張栩本因坊を下しビッグタイトルを獲得と共に九段昇段を果たした。全対局の棋譜を並べてみたが、読みの正確さ、切れ味などさすが大器と言われるだけある。早くから期待されていただけに特に番狂わせとも思わない。これから20歳代の4人で多くのタイトルが争われることは間違いない。山下天元が小学2年の時NHKこども囲碁名人戦で優勝しているが、その時の決勝戦の対戦相手が当時小学4年の高尾新本因坊・・・この対局は印象的(衝撃的)で今でもよく覚えている。
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