第54段 * 司法制度を悪用した巧妙で悪質な架空請求出現 ‐ その対応策 ‐ *
身に覚えが無いのに突然”出会い系サイト”の利用料の支払いを求めるなどの請求が送りつけられる所謂「振り込め詐欺」が多発している。これに対し当初法務省や国民生活センターは無視して相手にしない様に呼びかけていた。単なる架空請求はこれで良いが、近頃はより巧妙で悪質な手口が出現している。これには従来の”無視”は通用しない。きちんと対処しないと被害者が痛い目に遭ってしまう。司法制度を悪用したとんでもない手段で、無視を続けると何と『不当な請求』が司法のお墨付きで”正当な請求”になってしまうのだから恐ろしい。正しい知識で自分の身を守る必要がある。
司法には支払い督促制度や少額請求制度と言うものがあるのをご存知だろうか?ここでは簡単な説明と注意点を紹介する。
支払い督促制度は手続きが簡単で、書式さえ整っていれば書面審査のみで内容の真偽にかかわらず申立てが認められる。そして簡易裁判所は一方的に正式判決とも言える支払い督促状をいとも簡単に発行する。ここが曲者で、裁判所は申請内容を精査することはないのでいくらでもこの制度を悪用できてしまう。素人考えでは明らかにおかしく違法な請求と思われても無条件で通してしまうのはどう考えても納得がいかない。身に覚えのない場合、裁判所から督促を受けた人は同封されてきた文書で2週間以内に異議を申立てないといけない。さもないと最悪の場合は財産差し押さえなどの強制執行を受ける可能性もある。
支払い督促の申立ては”債務者の所在地を管轄する”簡易裁判所に対して行なわれる。この場合は遠隔地での訴訟になることはない。債務者側が異議を申立てることにより支払い督促は失効し通常訴訟に移行する。被害者が異議申立てをすれば、架空請求をしてきた悪質業者は本裁判を望まないはずだからその時点で申立て取下げて一件落着になると考えられる。仮に悪質業者が通常訴訟に持ち込んできたら、被害者は裁判所に出廷しきちんと争わなければならない。
60万円以下の支払い請求に利用できる少額訴訟制度を悪用されることがある。まず「当社サイトの登録料の支払いがない。」などとして登録料と”調査費”の支払いを求める督促状を内容証明郵便で被害者に送りつける。これを無視していると簡易裁判所から少額訴訟の訴状と第一回口頭弁論の期日を記した呼び出し状が『特別送達』で被害者に送付される。それに対して無視を続けると大変な事になる。この司法手続きを悪用された場合無視し続けると即刻敗訴となる。簡易裁判所の1回のみの審理で判決が出る少額訴訟では、指定期日に出廷しないと悪質業者の主張を認めたとみなさてしまう。その時点で被害者には支払い義務が生じてしまう。悪質業者は勝訴を盾に”正当な請求”を行ってくる。つまり悪質業者に”正当な権利”が生じ強制執行まで可能になってしまう。少額訴訟制度の場合も2週間以内に異議申立てを行えば通常訴訟へ移行する。つまりきちんと異議申立てをすれば僅か1日での即決を防ぐ事ができる。
いずれの場合も本裁判になった場合、身にやましい事がなければ必ず出廷して反論すれば良い。本裁判になれば当然弁護士も加わることになり、悪質業者にとってはリスクが大きすぎる。被害者が強く出れば架空請求の場合、悪質業者は勝ち目が無いのでまず間違いなく訴訟を取り下げる。裁判という手段は被害者が一々裁判に出席するのが面倒と考える相手の真理を利用した悪質業者の作戦なのだ。悪質な言いがかりには違いないが、巻き込まれたら面倒でもきちんと対処する必要がある。
民事訴訟の場合原則は被告側の所在地を管轄する裁判所で審理することになっているが、例外的に原告の所在地を管轄する裁判所での審理が可能になることがある。場合によっては悪質業者がこれを悪用して被害者に負担がかかるとんでもない遠隔地で訴訟を起こすことも考えられる。こんな場合でも裁判所への『移送申立て』により、自分が住む地域を管轄する裁判所へ審理を写すことが可能となる。
もし知らない間に裁判が行われ判決が出た場合は泣き寝入りになるのだろうか?まだまだ大丈夫、それで判決が確定したわけではない。裁判所から被害者に判決書が送られてくるのでまずはそれを確認する。そして身に覚えがないのであれば即刻異議申立てをすればよい。判決が確定しなければ強制執行されることはない。徹底的に争えば必ず勝てる。
それでは判決が確定した場合は救い様がないのだろうか?まだ助かる道は残っている。民事訴訟では『強制執行の停止』制度がある。この申立てを行えば強制執行が取り消されることもあるが確実ではない。ここまで来るとまさに最終段階、ここまでは行かない様にしたいものだ。万一判決が確定した場合は、先に述べた異議申立てと同時に強制執行停止の申立てを行っておくことを薦める。
一般の方は裁判所からの通知と知ってビビッてしまう場合が多い。悪質業者は支払い督促制度や少額請求制度を利用して訴訟を起こし、裁判所から通知を利用して被害者に圧力をかけて振込みを促す。誰が最初に考えたか知らないが極めて悪質かつ巧妙な手口・・・悪質業者が自ら考え出したとは思えない。おそらく司法に精通した何者かの入れ知恵と思われる。世の中にはこんな時に悪知恵が働く輩が必ずいる。
面倒ではあるが無視してはいけない。だからと言って悪質業者に直接電話したり出向いたりしてはいけない。相手の思う壺にはまるだけ。身に覚えがない場合、送られてきた書類が本物か否か確認する必要がある。書類の送付元が裁判所だからと言っても素直に信用してはいけない。裁判所の名を騙って郵送する場合もある。必ず電話帳などで裁判所の電話番号を確認しなければならない。また被害者を救済すると称して食い物にする悪質な”偽救済サイト”や”偽救済団体”などがあるのでご用心を・・・。慌てて飛びつくと大怪我をすることもあり得る。
対処法をきちんと理解していれば自力でも対応できる。しかしながら先に説明した様に司法の専門知識が必要とされるので素人には難しい事が多い。国民生活センターでは「判断に迷ったらセンターや警察に相談して欲しい」と言っている。やはり専門家に相談して正しい対応をとるのが確実であろう。そこで私の結論を・・・。
【結論】
信頼ある公的機関の国民生活センターや警察、弁護士などに相談してアドバイスを得る事を心がけて頂きたい。そのアドバイスに従いきちんと対応する必要がある。