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第57段   * 大相撲初場所を終えて (2005年1月23日) *

 
横綱朝青龍は2005年初場所またもや”強い、速い、うまい”の3拍子揃った圧倒的な強さで3度目の全勝優勝、通算10回目の優勝を果たした。千秋楽の結びの一番大関千代大海との対戦も44本の懸賞(手取りで132万円、しかも現金)がかかったが、あっという間に一方的にケリがついた。今場所カド番で14日目にやっと勝ち越した千代大海では歯が立たないとは思ったが・・・。朝青龍と大関以下他の力士との力量差は歴然としている。場所前風邪をひいて横審総見も欠席するなど稽古不足で、必ずしも体調万全で初日を迎えたとは言えなかった。それでも15日間ほとんど危なげなかった。一年前に初場所終了後第14段で、「まさに『朝青龍時代』の到来、『黄金時代の到来』を予感させる。このまま朝青龍の独走を許してしまうのだろうか?」と書いている。それから一年後、朝青龍は一人横綱として相撲協会を背負っている昨年6場所中5場所優勝、内2回の全勝優勝・・・朝青龍の黄金時代と言っても過言ではない。

 初場所が始まる時点では
”大関魁皇の綱取り”、”関脇若の里の大関取り”の2つの目玉があった。もし少なくともいずれかが最終盤まで可能性があれば今場所が盛り上がったはずだったが・・・。ところが何と早々と両方とも可能性がなくなってしまった。それに加えて朝青龍の独走になり、極端に言えば終盤は”消化試合”の様相を呈し盛り上がりに欠けた。終盤の興味は朝青龍の全勝優勝、栃東の大関復帰、強いて言えば小結白鵬が11番勝って来場所以降の大関取りに繋げるかどうかに絞られた。

 
魁皇に至っては2日目からの3連敗、そして10日目からの休場で、綱取りどころか一転して来場所は大関カド番に追い込まれた。2日目琴の若に敗れた時に嫌な予感がしたが、翌日小結白鵬に完敗したので不安は的中した。その後は皆さんご存知の通り。チャンスが一転してピンチになるとは・・・。魁皇は今年7月で33歳、年齢的にも上がり目はないだろう。おそらく今回がラストチャンスではなかったか?場所前に肩を痛めていて本調子ではなかったが、プロである以上体調を整えて出て来なければならない。プロの世界には言い訳けは通用しない。体調不良でせっかくのチャンスを失うのはもったいない。それに魁皇には精神的に脆さがあり、かつて何度も大関取りを逃している。今回もまた精神面での脆さも影響したのだろうか?

 
若の里は初日から2連勝、特に2日目新鋭琴欧州を一方的に双差しで寄り切った時は順風満帆のスタートに見えた。ところが3日目に拙い相撲で垣添に一方的に押し出されてからすっかりペースが狂ってしまう。何とズルズルと4連敗、中日までに5敗と早くも絶望になった。結局終盤の4連敗で6勝9敗の負け越し、おそらく3月場所は19場所連続して務めた三役から平幕に落ちることは確実。早くから”大関候補”と期待されながらなかなか一皮剥けず現在に至っている。相撲界関係者のみならず誰しもがその実力を認めている。以前から若の里も魁皇同様精神面での脆さが指摘されている。前回も今回も大関取りの場所は負け越し・・・特に体調面で悪いところはないそうだから精神面の脆さが肝心な場面でトリガーになっているのだろう。今年7月で29歳になるが、若い世代が台頭してきているのでこれからもっと頑張らなければいけない。


 かつて
若の里、琴光喜は朝青龍のライバルと言われていたが、現在では2人共に朝青龍には通用しなくなっている。琴光喜も小結で7勝8敗と負け越し、春場所は若の里同様平幕に下がる。とにかく琴光喜の相撲にはムラがありすぎて安定感がない。若の里は昨年朝青龍を2回破っているが、いずれも攻めて勝ったのではない。NHKの相撲中継のゲストの友綱親方に「勝ったのは偶然」と言われるようでは話にならない。何が違うのだろうか?素質が違うと言えばそれまで。朝青龍は横綱になってから更に強靭な精神力を身につけている。これでは差が開く一方。二人共肝心なところで脆さを露呈する。白鵬、琴欧州など若手の台頭が著しくこのままでは二人共忘れられた存在になりかねない。事実朝青龍がインタビューに答えて「強くなりそうなのは白鵬、琴欧州。二人共に強くなる。」と言い切っている。若の里、琴光喜二人共にまだ老け込む年ではない。「打倒朝青龍」の一念に燃え大関を目指してもう一花咲かせて欲しい。

 九州場所で休場して関脇に陥落した
栃東は場所前に出場が危ぶまれるほどの悪い状態だったと聞く。直前に初場所出場を決断し背水の陣で初場所に臨んだ。初場所10勝すれば大関に戻れる。少しでもチャンスがあればと言う気持ちで必死の想いで頑張った。14日目に栃乃洋を降して10勝し見事大関に復帰した。この日私は国技館で観戦していたが、場内は栃東への手拍子の大合唱・・・それだけ相撲ファンの期待が大きいのだ。最初は危なっかしかったが、徐々に調子を取り戻し千秋楽の雅山の強烈な突き押しをさばいて勝ちを得た。この時栃東は自分の復活を確認したのだろう。雅山に勝った直後1,2回小さくうなづいた。優勝した頃の本調子にはまだ遠いが、それでも大関を維持する力は十分にある。横綱を狙えるかどうかはもっと様子を見ないと何とも言えない。栃東は今年11月に29歳、けっして若くはないがまだチャンスはある。真面目で努力家で研究熱心、ただ怖いのは怪我。これで2回目の大関復帰だが、大関陥落は2回共に怪我が原因であり力が落ちたからではない。怪我には充分注意して更に努力を続けて欲しい。

 やはり
大関が頑張ってもらわないと本場所は盛り上がらない。九州場所中に武双山は引退、栃東は関脇に陥落して初場所は魁皇と千代大海の二人になった。優勝を争うどころではない。魁皇は途中休場、カド番の千代大海は14日目にカモにしている若の里を一方的に押し出してようやく大関の地位を確保する有様。千秋楽の朝青龍vs千代大海の一戦は、力の差がありすぎてとても横綱vs大関の戦いとは思えなかった。大関と言えば横綱に次ぐ番付上ではNo.2に位置する。当然横綱と優勝を争い次の横綱を目指さなければならない。数の上では春場所大関が3人揃うが、現状では朝青龍の勢いを止められるとは到底思えないはっきり言って情けない。大関陣では唯一栃東に期待したいが果たして・・・?

 一方
新しい若い力の出現に頼もしさを感じる。外国人力士に有望株が輩出している。その最右翼に位置するのがモンゴル出身の19歳白鵬・・・初場所も新小結で11勝(九州場所で12勝)と早くも大関候補に名乗りを挙げた。1年前の初場所はまだ新十両、春場所には12勝3敗で十両優勝して一気に幕内昇進を決めた。早すぎる昇進と危惧したがその後も勢いは止まらず、1度8勝があるだけで残りは全て10勝以上と素晴らしい。

 九州場所が平幕での12勝なので、大関取りの基点がどこになるかと言うことで北の湖理事長は慎重な姿勢を示している。しかしながら平幕とは言え東前頭筆頭で対戦相手は三役とほとんど変わらない。押尾川審判部長は「春場所の成績如何では」と大関昇進に含みを持たせた発言をしている。過去に前3場所目が平幕で大関に昇進したのは朝潮(現高砂親方)、豊山(前時津風親方)など5人いる。3場所合計の勝星は34〜37勝、大関昇進直前の場所は12勝以上となっている。このデータを踏まえての
私個人は『10勝では見送り、11勝で議論になり見通し不明、12勝以上は大関昇進』との見解を示しておく

 白鵬の強さはどこから来るのだろうか?年配の方なら多くの方が大鵬親方の現役時代を覚えておられることだろう。”柔の大鵬、剛の柏戸”と言われた二人の魅力的で対照的な横綱が日本中を沸かせた。柏戸はどうしても大鵬に歩が悪かった。大鵬の強さはむろん力強さがあり、加えて体の柔らかさを生かして相手の力を吸収して力を出せない凄さがあった。比較するのはまだ早いが、
白鵬には”大鵬の再来”に成り得る可能性を秘めているのではと感じさせる魅力がある。キャリアが浅いにも関わらず、白鵬は強さにうまさ、それに強靭な足腰を生かした柔軟な相撲がとれる。努力さえ怠らなければ更なる上昇が期待される。負ける時はあっさり負けるなどまだまだ取り口には改良の余地がある。現状に甘んじて天狗になってはいけないが、周りの親方衆などがしっかりと指導することだから大丈夫だろう。

 2番手はブルガリア出身204cmの長身の21歳琴欧州・・・昨年の3月場所に幕下優勝しライバル萩原(現稀勢の里)と共に十両昇進を果たした。十両2場所目の7月場所に13勝2敗で十両優勝し、琴欧州もまた白鵬同様一気に新入幕を果たした。9勝、11勝、そして初場所前頭東4枚目で9勝して3月場所の小結をほぼ確実にしている。長身を生かした懐の深い相撲には魅力がある。加えてレスリングの経験を生かして足腰が強く粘りもある。若の里に双差しの速攻で敗れるなど琴欧州も白鵬同様まだ未完成な部分がある。稽古を重ねて更に強くなることは間違いない。近い将来大関候補として名乗りを挙げてくることは確実。

 日本人若手力士で最も注目を集めているのは若干18歳稀勢の里・・・昨年3月場所に琴欧州と同時に十両昇進している。琴欧州とは同じ松戸に部屋があり、下に位置する頃からお互いに稽古を重ねている。同じ様に昇進しているのでお互いにライバル意識を持っている。稀勢の里は琴欧州から1場所遅れて九州場所で新入幕を果たした。
貴乃花に次ぐ18歳2ヶ月の若さでの幕内昇進で相撲関係者の期待は大いに高まっている。早くも”第2の曙、貴乃花”との呼び声もある。同じ部屋の若の里同様真っ正直な正攻法で見ていて気持ちが良い。ただ十両昇進以降10勝以上はまだなく、初場所は6勝9敗と初の負け越しを喫した。強引な相撲や惜しい相撲があったが、何と言ってもまだ若干18歳で発展途上と言える。稀勢の里は磨けばキラッと光る宝石”、白鵬や琴欧州と並ぶ将来の大関、横綱候補の一角。遠からず白鵬、琴欧州に追いついて土俵を賑わせてくれることは間違いない。

 グルジア出身の黒海、ロシア出身の露鵬も幕内上位に上がって来ている。二人共に引き技が目立ちまだまだ相撲が甘い。それでもこの地位にあるのだから間違いなく力はある。
大関、横綱を狙う器ではなさそうだが、いずれ三役を務めることになると思う。

 高校出身の
豊ノ島琴奨菊も注目を集めている。二人共相撲巧者ではあるが、幕内に定着するにはまだ力不足に見える。豊ノ島は再入幕の初場所の千秋楽、足を痛めている春日王を降してようやく勝ち越した。新入幕の琴奨菊は5勝10敗と大きく負け越し、春場所は十両からの再スタートになった。素質はあり更に鍛えていけば幕内中堅以上で頑張れる力量を充分に備えている。

 3月13日から3月場所が始まる。”荒れる大阪場所”と言われるが昨年同様朝青龍が全勝で突っ走るのだろうか?初場所の様に13日目で4差ついて朝青龍の出番を待たずして優勝が決まっては面白くも何ともない。強い横綱にピッタリくっついていかなければ他の力士に出番はない。
一刻も早く朝青龍を脅かす存在の出現が望まれる強い横綱の存在はライバルの出現で更に輝きを増す。次のスター候補生が数多く出てきている。外国人でも日本人でも一向に構わない。相撲人気の回復には朝青龍に対抗する勢力が横綱と優勝を争う様になることが特効薬となる。

 ところで私は7日目に初めてタマリ席で最後まで観戦した。なかなか入手しづらくしかも高価なチケットだが、あるルートでお茶屋(相撲案内所)から購入できた。土俵に近いので力士同士のぶつかる音や息遣いまで聞こえてくる。土俵際で力士が自分のいる方向に向かってくると思わず身を引いてしまう。実際力士が土俵の外で自分の所へ飛んできたら恐ろしい。でもその緊迫感がたまらない。その臨場感が快感なのだ。高価なので頻繁にとはいかないが、1場所1回はタマリ席で観戦しようと思っている。1回経験するとその魅力に獲りつかれてしまう。
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