第59段 * 平成の大合併 - 市町村合併、呆れた在任特例の実態 - *
1月30日長崎県五島市で市議会の解散を求める住民投票が実施され、賛成票が90%以上を占め即日議会は解散した。40日以内に定数26で選挙が実施される。実はこの市議会、1市5町が合併し「在任特例」で91人全員が議員の大所帯で発足した。歳費を最も高い旧福江市に合わせたt為、旧町議69人の報酬は月額で1人10万5000〜12万5000円も引き上げられた。住民から”税金の無駄遣い”との批判を浴び解散に追い込まれた。あらためて正規の定数で市議会議員選挙が実施される。また山梨県南アルプス市議会では合併当初95人だったが、2004年10月住民の批判を受けて1年11ヶ月の特例期間を4ヶ月短縮し自主的に解散した。
何が問題なのか?1999年以降政府主導の『平成の大合併』策で市町村合併が加速している。 市町村合併した場合は、当然のことながら速やかに適正な定員による選挙で議員を選ぶべき・・・ところが合併による失職を恐れて尻込みする議員を懐柔する為に妥協策がとられた。政府主導で強引に市町村合併を押し進めるのだからどうしても”アメ”が必要になる。議員の既得権を守る為にいかにも役人が考えそうな事、それが「在任特例」なのだ。これが”諸悪の根源”とも言える。
「在任特例」とは?この制度を適用すると、合併する旧市町村議員が合併後もそのまま在任することができる。在任期間は各自治体が決める。対等合併の場合は最長2年間、編入合併の場合は編入先の議員任期いっぱい適用することができる。1999年4月から今年1月末までに合併した306の新市町の内、「在任特例」を適用したのは183市町、全ての議員が失職し法定数による選挙を即座に実施したのは67市町、残りの56市町はほとんどが編入合併で旧市町村ごとに一定の定数を認める定数特例を適用している。多くの場合旧市町村の議員が既存の権利を主張するだろうから、「在任特例」を適用するところが多くなってしまう。
「在任特例」を適用すれば当然の如く議員は膨れ上がり”マンモス議会”となる。『平成の大合併』では100人!を超える議会がいくつも誕生している。今年3月に合併する秋田県大仙市では人口約9万8000人にもかかわらず、何と議員数が146人!で東京都議会の議員定数(127名)を上回ってしまう。10万にも満たない市が1000万を超える東京より議員数が多いとは・・・?何とも恐れ入った話・・・あまりの馬鹿馬鹿しさに呆れてしまう。こんなに多くの議員が集まってどうなるのだろうか?まともに機能するとは到底思えない。
議員数が多ければ当然歳費も増える。合併により大幅に定員が減るはずなのに一時的にせよ減らないのだからそこに無駄が発生する。旧市町村の議員としては「合併協議時の合意事項が守られているかどうか監視する必要がある」との言い分がある。議員としての身分がないと監視できないとでも言いたいのだろう。そんなことは所詮我が身を守りたい為の方便にすぎない。 どれほど大勢議員がいたところで結局は”烏合の衆”になり大して意味をなさない可能性が高い。それ故「税金の無駄遣い」との住民の声が上がるのは当然のことと言える。
先の秋田県大仙市では住民の批判が高まり、新市議の歳費を旧市町村議時代の歳費に据え置き、かつ在任期間も半年に短縮した。それでも定数30の議員数になるまでに2億円の支出が増えると言う。新潟県新発田市では旧町村議の歳費を新発田市議の歳費に合わせる。何人かは知らないが多くの議員が歳費の大幅増額になる。ここも4億円の支出が増えると言う。
役人や議員は全くずる賢いものでいろいろな手段を考えるものだ。2月1日に水戸市へ編入した内原町では旧町議への補償策を捻り出した。16人の町議が合併と同時に失職したが、合併後に水戸市の非常勤特別職の参与!として水戸市議の任期(2007年4月)いっぱい勤める?とのこと。議員としての賞与や政務調査費は支給されないが、参与として市議の歳費と同額(59万円)が支給される。1人あたり1593万円X16名=2億5488万円になる。どうせ何も仕事をしないのだろうから、まるで”どぶに銭を捨てる”様なもの。既得権を主張する議員と役人との妥協の産物以外の何者でもない。これでも「在任特例」を適用するよりは約7000万ほど節約できると役人はヌケヌケと説明するのだから、役人どもの厚顔無恥には呆れてしまう。
どこの市町村合併だったか忘れたが呆れた話がある。合併の少し前に議員の任期切れになる町がこともあろうに町議選挙の実施を決めた。何と選挙実施の8日後に市町村合併でその町の議員は失職することになっていた。わずか8日の為に選挙を行なおうと言うのだ。常識で考えればあり得ない話・・・何故この様なことになったのだろうか?これには地方議員の年金が絡んでいる。地方議員は2期以上務めると引退後議員年金が出る。それに8日議員の職にあれば何と1期分の議員年金が出る。つまり2期と8日議員を務めれば3期分の議員が受け取れる。議員にとっては美味しい話だが、これには住民から猛反対が起き選挙は中止となった。
また大阪府泉佐野市では”退職金”の様な形で旧議員に対し補償しようと考えた。失職する議員に半年分の歳費にあたる総額約2億円を支払って話をまとめようとした。ここでは合併が成立せずせっかくの奥の手が無駄になったが、もし実現すれば最長期間の2年の場合と比較して3億円節約になったと役所では説明している。だがこれも呆れ果てた役人の猿知恵の域を出ない。
この財政難の時代に何とも無駄な話だ。まさに典型的なお手盛りと言ってもよい。何の為の市町村合併か?役人も議員も財政状況をどの様に考えているのだろうか?国も地方自治体も膨大な累積赤字を抱えている。民間の会社ならとっくの昔に破綻している。まるで”打ち出の小槌”を振るかの如く赤字国債、地方債を乱発してきた。国は30兆円を超える国債を2005年度も発行する。その内4割ほどは借金を返す為の国債、はっきり言えば自転車操業を繰り返している。地方自治体も国同様の自転車操業・・・。いったいいつになったら借金を完済できるのか見通しが立たない。そんな厳しい財政状況にもかかわらず役人、政治家は全くノー天気で危機感を持っているとは思えない。
以前韓国は財政が危機的状況に陥りIMFの助けを借りて徹底的に構造改革を実施して現在まで立て直した。このままでは日本はかつての韓国の二の舞になる恐れがある。政治家には隣の国のかつての状況は”対岸の火事”にしか見えないのか?”日本は大丈夫”なんていつまでも甘く見ていると、国も地方自治体もIMFのお世話になるかも・・・!そんな状況にならない様に政治家には努力してもらわなければならないが・・・右を見ても左を見ても日本の政治家は頼りにならない。日本は国連安保理事会の常任理事国入りを望んでいるが、その前にまず自らの足元(国内)をきちんと固めなければならない。
(2005.02.12追記)
2月13日周辺4町と合併した人口約29万7000人の新「下関市」が誕生する。政令指定都市に準じた権限を持つ「中核市」への今年10月の移行を目指している。ここでも「在任特例」が適用され、今後2年間議員数105人の”マンモス市議会”となる。市の財政よりも議員自身の身分保証の方が大切なのはここでも同じ。
(2005.08.28追記)
合併で議員数が倍増した岡山県総社市の市議会解散請求(リコール)の賛否を問う住民投票が28日投票、即日開票され、賛成2万2886票、反対2540票で、リコールが成立し40日以内に出直し市議選が実施される。総社市は今年3月22日隣接する旧山手村、旧清音村と合併した際に「在任特例」を適用している。新しい市議定数は24だが、旧総社市議の2006年5月の任期満了まで43名でスタートした。ところが”税金の無駄使い”との市民の反発が大きかったと思われる。ここよりも更に大きいマンモス議会がいくつもあるのにも関わらず、総社市の様な動きが見られないのは何故だろうか?既得権益を守ろうとする連中の工作に丸め込まれている方々が多いのだろうか?「ちょっとのことだから大目に見ようか」とか「波風を立てたくない」などと何も考えない”●●”が多いのだろうか?