第60段 * 平成の大合併その2 - 市町村合併、「合併特例債」の罠 - *
2月5日に誕生した新「久留米市」では議員数が九州最大の94人の”マンモス議会”が誕生した。久留米は周辺の4町を編入合併し、人口が現在の1.3倍の約30万6000人となる。将来的には久留米市は都市計画立案/実施など県に近い権限が得られる『中核市』移行を視野に入れ、2010年度の九州新幹線駅開業に向け市街地整備などに取り組むとしている。
ここでも「在任特例」が適用され、4町の旧町議58人!がその恩恵を受けている。適用期間は2年3ヶ月、旧町議の歳費は約1.5倍に引き上げられた。その結果旧市議との格差が約20万円に縮小されたそうだ。単純に考えれば歳費増額分(20万円/月・人X58人X27ヶ月=3億1320万円)+期末手当(賞与)の増額分が出費増となる。全て税金で賄われる。また”マンモス議会”開催の為の議場整備などに約1億円費やした。第59段でも述べた様一時的にせよ新市はかなりの負担増になる。財政難の新市にとっては痛いはずなのだが・・・。鈍感な議員や役人はその痛みを我が身に感じていない様に見える。反対運動で議会が自主的に解散、あるいは期間短縮などに追い込まれた例もあるが、ここでは何も動きはなかったのだろうか?
合併特例法のもう一つの目玉の「合併特例債」を財源に、新市では旧町に体育館などを建設し設備の充実を図る。新市誕生を期にいろいろな整備を行なおうとしている。今回の合併により住民は一時的に恩恵を蒙るだろうが、一方で新市の借金が膨れ上がるだけでいずれそのツケは住民に回ってくる。
ところで「合併特例債」とは何か?合併特例法にはもう一つのアメと言える「地方債の特例」、いわゆる「合併特例債」が規定されている。通常地方自治体が債権を発行する場合、総務省に申請して許可を得なければならない。地方自治体の現在の財政状況では認可要件を満たさず、なかなか許可を得るのが難しい。ところが今回の合併特例法(2005年3月末で申請打ち切り)では地方債の発行について優遇規定がある。合併市町村が”まちづくり推進”の為市町村建設計画に基づいて行なう事業や基金の積立に要する経費について、合併年度及びこれに続く10年度に限りその財源として借り入れることができる。
それでは地方自治体へはどんな優遇措置があるのだろうか?
・対象事業にかかる経費の95%まで特例債を充当することができる。
・元利償還金の70%を後年度普通交付税で措置される。
・特例債は国や県の補助事業にも使うことが出来る。
「合併特例法」の対象となる事業とは何か?対象となるのは、「一体性の速やかな確立・均衡のある発展の為の公共的施設の整備事業等」、あるいは「地域住民の連帯の強化・旧市町村の区域の地域振興等の為の基金の積立て」とある。結局は”公共事業”に使えと国は言っている。現在の国も地方自治体も借金を繰り返して景気浮揚策として”公共事業”に精を出している。それでも景気は一向に良くならず税収が伸びずに財政赤字が膨れ上がっている。今回の「合併特例法」も結局は従来の手法を踏襲して”公共事業”に頼っている。合併により新しく誕生した地方自治体の苦しみは更に一層増すことだろう。
ちょっと聞くと地方自治体にとって美味しそうな話に思える。でもよくよく考えてみれば所詮”借金”、”ない袖は振れぬ”とは言うがこの場合は無理やり”ない袖を振っている”のだ。国にとっても地方自治体にとってもただ単に”借金の上積み”しているにすぎない。地方自治体から見れば借金総額(元利合計)の70%を地方交付税として受け取れる。つまり国が借金の肩代わりをしてくれる。地方自治体にとっては魅力的な仕組みに見えるが、それでも30%は地方自治体が負担しなければならない。10年後には地方交付税や補助金が廃止され、また政府からのそれに見合う財源委譲の保証はない。その時点で地方自治体の負担が一挙に増大する恐れがある。それによ〜く考えてみよう。借金返済の出所はどこか?国だ、地方自治体だと言っているが、結局借金返済の出所は国民が払っている税金なのだ。回り回って最終的には国民各人の大きな負担としてのしかかって来る。借金をツケ回し財政赤字を更に膨れさせるだけ・・・何の解決にもなっていないのではないか?
何故政府は強引と思えるほど合併を推進しているのだろうか?「三位一体の改革」を皆さんもさんざん聞かされて”耳にたこ”ができていると思う。K内閣の基本的な改革方針の一つ「地方にできることは地方に」の名目のもとに、国庫補助負担金と地方行税の削減、地方への財源移譲を押し進めている。そこでは国庫補助負担金を2004年度から3年間で4兆円の削減(約20%の削減)を目指している。地方への権限委譲(地方分権)と言う美名の下に、実は国は自らの責任を放棄して地方自治体へ責任を押し付けようとしている。
別な見方をすればうまいこと理由をつけて、言い換えれば地方自治体にまず”アメ”を与えて油断させ、後に”鞭”で痛い目に合わせようと言う魂胆が見えている。「2005年3月末迄に合併申請しないとと損するよ」と国は地方自治体の弱みにつけこんで巧みにそそのかした様に見える。駆け込み合併が目立つのはその為だろう。苦しい状況に置かれている地方自治体は目の前の餌に囚われて甘い誘いに乗ってしまう。国は地方自治体に巧妙な罠を仕掛けていると言える。