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第77段 * 堀江氏の野望 その8 − 急転直下70日目の決着、しかしもう一山・・・? −* 

 東京高裁の2005年3月23日「新株予約権」発行差止め仮処分に対するニッポン放送の保全抗告を棄却する決定でライブドアが俄然有利になった。ところが翌日フジテレビは北尾氏率いるSBIと株券消費貸借契約を結び、ニッポン放送が保有するフジテレビ株式を5年間の期限付きでSBIに引き渡した。この一手は極めて効果的でさすがの堀江氏も法的措置などの対抗手段をとることができない。ライブドアの裁判勝利もつかの間のぬか喜びで、これで一転して形勢は逆転しフジテレビに傾いた。堀江氏が最も欲しがっていたフジテレビ株式が貸し株とは言え”もぬけの殻”になったのは打撃が大きい。フジテレビにとっても危険な”窮余の一策”に違いないが、ともかくライブドアとの争いのピンチを脱した。この後堀江氏は形勢不利と見たのかマスコミには多くを語っていない。ともかく水面下でフジテレビとライブドアの激しい交渉が行なわれていた。誰がリークしたかは分からないが、時々漏れ聞こえてくる情報により世間が踊らされていた感が強い。

 暫く”音なしの構え”で静かに局面が推移していたが、4月13日に読売新聞が「月内和解へ、資本・業務提携を結ぶ方向で最終調整」と報じてから一転して賑やかな進行になる。4月16日初めてライブドア堀江氏、フジテレビ日枝氏/村上氏、ニッポン放送亀淵氏が一同に会し和解協議を行い事態は急展開する。そして
4月18日午後5時30分から共同記者会見が行なわれ、資本・業務提携の基本合意したことを公式に発表した。記者会見での出席者の表情、会見終了後の握手などを見ると、とても関係者が本当に納得して合意に至ったとは思えないほどぎこちなく見えた。今回の合意内容を眺めると、どこにとっても不本意な内容であることが見えてくる。

 ITmediaニュースによると
主な合意内容は以下の通り。(詳細は こちら を参照)

 フジテレビによるニッポン放送を完全子会社化

  
・ニッポン放送株式の32.40%を保有するライブドア・パートナーズを、フジテレビが総額670億円で
   5月23日受け渡しで買収する。フジテレビは取得済み株式と合わせ同放送株式の68.87%を
   取得しまずは連結子会社化する。
  ・ライブドアはニッポン放送株式の17.60%を継続保有し第2位株主としてとどまる。
   6月予定の株主総会では同放送の取締役会が提案する議案に対し賛成する。
  ・フジテレビは完全子会社化を迅速に行うため、産業活力再生特別措置法を活用する。
   5月下旬同法認定を申請し9月1日付けで株式交換方式により同放送を完全子会社化する。
  ・ニッポン放送株主への交付金は1株当たり6300円とする予定。
   フジテレビが買収するライブドア・パートナーズは、フジテレビかニッポン放送が吸収合併する方向で
   検討する。ライブドアは株式交換に応じ、株式買取請求権は行使しない。
  ・ニッポン放送はフジテレビの完全子会社化で上場廃止になる為、5月下旬を目処に自己株式の
   公開買付け(買付け価格6300円、総額400億円を予定)を行なう。尚、取得株式は消却する予定。
  ・ライブドアは公開買付けに応じ、最終的にニッポン放送株式を全てフジテレビに譲渡する。


 
フジテレビはライブドアに出資

  ・ライブドア・パートナーズ買収を前提として、フジテレビはライブドアに資本参加する。
   ライブドアが5月23日払い込みで実施する440億円の第三者割当増資(1株329円)をフジテレビが
   引き受ける。増資後のフジテレビの出資比率は持分法が適用されない12.75%となり、
   堀江氏に次ぐ第2位株主となる。少なくとも2007年9月末までは取得株式はライブドアの
   事前の同意がない限り、第三者への譲渡や貸し株などはしない。
  ・ライブドアとフジテレビは「業務提携推進委員会」を設置し両社サービスの提携について話合う。
   協議にはニッポン放送の参加も要請し、ライブドアと同放送の業務提携も検討する。

 フジテレビは結局TOB価格(5950円)より高い価格でライブドアからニッポン放送株式を取得することになった。フジテレビにはTOB価格の足枷が重く圧し掛かる。ライブドア・パートナーズからの実質買取り価格、及び5月下旬のTOB価格は6300円で、1月のTOB価格5950円と350円もの差がある。TOBに応じた株主に対してどう説明するのだろうか?背信行為にはならないのか?ただ単に状況が変わったからでは納得できず、取得企業は自社株主に対して説明できないだろう。尤も承知の上でTOBに応じた企業にも問題大有りだが・・・。フジテレビの経営陣が株主総会で追求されるだけでなく、取得企業の経営陣が株主代表訴訟を起こされる可能性もある。こんなことならば堀江氏が敵対的買収を仕掛けてきた後に、フジテレビはTOB価格を引き上げればここまで事態をこじらせることなくライブドアに対抗可能ではなかったのか?面子にこだわった日枝氏の態度は結果的に禍根を残したとも言える。日枝氏は株主総会、あるいはそれ以前に経営責任を問われる公算が大きい。

 またライブドア・パートナーズを買収するメリットがあるかどうかにも疑問がある。ライブドア・パートナーズっていったいどんな企業なのか?2004年10月に設立された資本金1000万円の小さな投資事業会社にそんなに企業価値があるとは思えない。それに従業員数0名とは・・・全く従業員がいないのに何の業務を行なっているのか?実体のないペーパー会社?トンネル会社?買収総額670億円(1株6300円相当)にはライブドア・パートナーズの抱える負債も含まれる。直接的に買い取り価格に上乗せできないので、形を変えて負の部分を肩代わりして実質TOB価格との差額を補填しているしか考えられない。どう見ても
小手先だけのまやかしにしか思えないが・・・?

 
フジテレビはライブドア株式を第三者割当増資で取得し440億円を負担する。これはライブドアへの資本参加と言うことになるが、フジテレビにとってどの様なメリットがあるのだろうか?保有比率12.75%で堀江氏に次ぐ大株主となり、フジテレビにはライブドアに対してそれなりの責任が生じる。440億円もの投資になるのだから、当然投資対効果の観点からも投資に見合った見返りが必要となる。それが”業務提携”により生まれる+αかもしれないが、現状ではまだ何にも見えて来ない。ライブドアの株価が取得価格329円(注)より下落すればフジテレビは損失を被ることになり株主から突き上げられることになる。”業務提携”の行方如何ではフジテレビは危険な荷物を背負うことになるかもしれない。

(注)フジテレビへのライブドア株式の第三者割当価格が329円に設定されているがこれは確定ではない。通常第三者割当増資で価格設定する場合には、先にデューディリジェンス(特別監査)を実施してその企業の経営実態を精査した上で決定する。ところが今回は合意を優先した為に特別監査は後回しになったとのこと。監査結果しだいでは設定価格が変更され、329円が保証されている訳けではない。 状況次第では設定価格の変更のみならず第三者割当増資そのものが中止になる可能性もある。尚、デューディリジェンスとは・・・企業または投資家がM&Aを行うに際して最終的な決断をする前に企業の内容が提示された情報どおりであるかを確認し、買収先、投資先の経営実体を正確に把握し問題点の有無を確かめる調査」のこと。

 
フジテレビは今回の合意でライブドアに約1470億円!もの資金を提供することになる。1月実施のTOB、SBIとの共同出資、4倍強の増配などと併せると2000億円を超える膨大な出費になり、当初予定したTOB費用総額を約800億円も上回る結果となった。多大な代償を支払いライブドアのフジサンケイグループの経営への関与を排除することに成功した。だがそのツケはとてつもなく大きい。当初の狙いのニッポン放送完全子会社化は達成したが、思いもかけぬ負担増でフジテレビの経営を圧迫する恐れがある。

 日枝氏は堀江氏との対話を頑として受け付けず異常事態を長引かせることになった。更に苦肉の策として打ち出した「新株予約権」発行が無残な敗訴と共にフジテレビに大きなマイナスイメージをもたらした。結果として負担増に繋がると共にフジサケイグループ全体の信用を失墜させたと看做せる。堀江氏への対応、見通しが甘かったと糾弾されても仕方がない。まだ何も決まっていない業務提携交渉をどうまとめるのか、この対応次第では事態がどう動くか分からない。
フジテレビ経営陣が株主総会を乗り切るにはまだまだ越えなければならない関門がいくつも待ち構えている

 一方
ライブドアは金銭面では約1470億円もの巨額の資金を入手し、ニッポン放送株式取得に要した1031億円を大幅に上回る額を回収した。投資対効果の観点では大成功と言える。これが村上ファンドの様な投資顧問会社であれば「メデタシ、メデタシ」で済むが、堀江氏の狙いは金銭面での収穫だけではなかったはずだが・・・?しかしながら金銭面での収穫に比べると”業務提携”での具体的な収穫は見当たらない。政治の世界によくある問題/課題の先送りがなされただけではないか?「業務提携推進委員会」なる組織を立ち上げることで合意しただけでこの先どの様に進めるか全く方向性が示されていない。まだ縺れる要素が多分に残されている。これでは玉虫色の決着が図られたようにしか見えない。

 堀江氏は”インターネットと放送の融合”と言う大義名分で今回の行動に出ている。ニッポン放送の経営権を入手した後にフジテレビ株式を取得してフジサンケイグループ中枢の経営に参画することが狙いではなかったのか?堀江氏の
「フジサンケイグループを掌中に収め、メディア、ネット、金融のコングロマリット(=複合企業体)を構築する」との野望は頓挫した。今まで繰り返し”ネットと放送の融合”をいろいろな場でぶち上げてきたのだから”金で解決”は如何にもまずい。野望の実現はともかくとして少なくともフジテレビと実体のある業務提携が実現できなければ、堀江氏は単なるグリーンメーラーとして世間の信用を失うことになってしまう。

 堀江氏は折角過半数を獲得したニッポン放送株式を全て手放し、かつフジテレビ株式を全く取得することができなかった。逆にフジテレビがライブドア株式を12.75%取得したことにより、フジテレビがライブドアの経営に関与できるとも看做せる。ライブドアがフジサンケイグループに入り込むつもりが逆に入り込まれたとも言える。確かに形式的には両者の資本提携には違いないが、この方向の違いの持つ意味は大きいと思われる。
ライブドアがフジテレビ、ニッポン放送に資本参加しないので、フジサンケイグループに対する影響力をどれほど持つことができるのか疑問がある。堀江氏はこれも”想定の範囲内”と強気の態度を崩していない。

 ライブドアはフジテレビ、ニッポン放送に対して全く議決権を持っていないが、フジテレビはライブドアに対して12.75%もの議決権を持っている。このことも持つ意味は大きい。ライブドアは何ら影響力を持てないのと同義と言える。ところで将来フジテレビに余力ができた時にライブドアに対して買収攻勢ををかけてくる可能性はないのだろうか?そんなことがあるかどうかは分からないが・・・12.75%ものライブドア株式をフジテレビに譲渡するのは、堀江氏にとって危険な”資本提携”かもしれない。

 約1470億円もライブドアに支払うことになったフジテレビはライブドアへ取締役を1人送り込むを検討していると報じられている。堀江氏に次ぐ第2位の大株主となり、ライブドアへの影響力を強めると見られる。またライブドアが再度フジテレビ買収を行なわない様に牽制する狙いもあると思われる。巨額の資金が再び今回の様な敵対的買収に使用される懸念も指摘されているので、その様な動きがあれば事前に封じ込むと言うことであろう。
12.75%を握ったフジテレビは今後様々な形で、ライブドアの経営に口を出すことが予想される。尤も堀江氏にとっては”想定の範囲内”かもしれないが・・・?

 
業務提携についてはフジテレビ、ライブドア、ニッポン放送で「”ネットと放送の融合”事業の具体策を検討する業務提携推進委員会」を設置し具体策を今後検討するとしている。フジテレビはライブドアに出資するからにはその見返りを得なければならない。でないと株主に説明がつかない。そこを意識してのことか、堀江氏は「フジテレビはライブドアに出資するのだから企業価値を下げる訳けにはいかない。きちんと業務提携するしかないでしょう。」と述べている。

 しかしながら敵対的買収で激しく対立してきた両者がすんなりと友好関係を築くことができるだろうか?
過去の経緯からして、どこまで真剣にフジテレビがライブドアとの業務提携を考えているか疑問がある。何故なら今回の合意内容ではライブドアの顔を立てる為に”業務提携”を入れたと思われる。金銭面での決着だけでは堀江氏は単なるグリーンメーラーに終わってしまう。それでは堀江氏が合意を受け入れるはずがない。そこでフジテレビが申し訳け程度に”業務提携”を入れたとするのは穿った見方だろうか?記者会見で日枝氏は「マスコミの公共性を保つのにリスクがなく、今後の”業務提携”でフジテレビが主導的立場を取れることで合意に達した」と説明しているが・・・?”主導的立場”との意味深な言い回しが意味するところは何だろう。

 堀江氏は今回の合意で金銭面での決着を急いだ様にも見えるところがあり、ややダーティなイメージを世間に対して与えている。堀江氏は「増資と別にして、会社の資金の一部を別のM&Aにあてることも考えたい」と述べている。また同じことを引き起こすではとの警戒感を持たせることになりかねない。今後の展開、特に”業務提携”で実質を取らないと、「やはりグリーンメーラーだったのか。」となってしまう。それだけは何が何でも避けたいはずだが・・・。しかしながら
社会的信用を著しく失っている堀江氏の未来は必ずしも楽観視できるものではない

 ライブドアは今回の為にリーマン・ブラザーズに800億円もの「新株予約権」を発行し既に普通株式に転換されている。更に今回の合意でフジテレビを引受け先とする第三者割当増資が予定されている。この結果ライブドアの発行済み株式は異常と思えるほど膨れ上がり株式の希薄化が進んでいる。これではライブドアはかなり企業価値を高めないと株主にとっては不利益になる。またライブドアは設立以来無配を続けており、今回の合意で利益が出ても配当に繋がるかどうかは分からない。堀江氏は「配当よりも利益を新たな投資に注ぎこみ、更なる利益を産み出し企業価値を高めるこことで株価が上昇し株主の利益に繋がる」と考えているのだろう。現時点で株価はかなり下落している。適切な対策を講じて株価上昇に繋げなければ、さすがに株主の不満が高まってくるのではないか?
株式の極端な希薄化、無配継続もあり、今回の騒動の最終的な決着次第では堀江氏も株主総会対策で苦しむことになるかもしれない。

 フジテレビもライブドアも口では「株主の利益」とは言っているが、今回の一連の騒動を見る限りにおいては株主のことは二の次で経営陣の思惑だけでコトを進めている。堀江氏は企業は株主のものと言い切っているが果たしてそうだろうか?企業活動は全てのステークホルダー(=利害関係者)との良好な関係を確立・維持し、お互いの利益実現を目指して行くことにより成り立つ。その観点から見れば今回の関係者は株主だけでなく従業員、取引先など全てのステークホルダーへの配慮に欠けていると断ずる。特定の株主、経営陣だけが私物化する様な行動をとるのは許せない。
今回の一連の騒動での関係者の余りにも身勝手な行動には怒りを覚える

(*)
ステークホルダーとは・・・企業の経営活動の存続や発展に対して利害関係を有するもの。顧客、従業員、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会、行政機関など、企業を取り巻くあらゆる利害関係者を指す。現在企業経営には「それぞれのステークホルダーに社会的な存在として認められた上で、企業だけでなくステークホルダーにも利益をもたらす経営(=ステークホルダー経営)」が求められている。

 世間ではライブドア有利とか、フジテレビ有利とか言っている方もいるが、現実は両者ともぎりぎりで強がりは言っているがそんなに余裕があるとは到底思えない。
現時点では”痛み分け”の評価が妥当なところ。半死半生に陥った当事者が悲鳴を上げて当面の妥協を図ったのだろう。ニッポン放送の株主総会への提案提出期限の前に何とかしたいことで取り敢えず一致したと思われる。今回の合意で取り敢えずは最悪の泥沼状態は脱したかの様に見える。但し皮肉な見方をすれば最悪状況回避の為の暫定対応と言えないこともない。しかしながらこれ以上の見苦しい争いは見るに耐えない。今回の合意には疑問点があり最終決着までにはまだ紆余曲折があるだろうが、関係者の鋭意努力により北尾氏の言う”大人の解決”がなされることを一応期待はしているが・・・

(2005.06.27追記)

 
ニッポン放送が今日東京証券取引所に有価証券取引報告書を提出し、上場廃止基準に抵触することが最終確認され上場廃止が正式決定した(こちら 参照)。明日から整理ポストに割り当てられ、東証にて7月27日まで株式の売買ができるが翌28日には上場廃止される。また9月1日までに残りのニッポン放送株式も現金交換の形で買取られる予定になっている。これでニッポン放送はフジテレビの完全子会社となり証券市場から姿を消す。ライブドアの”暁の急襲”に始まった今回の騒動の当事者の一つが表舞台から退場する。

 
フジテレビとライブドアの合意事項は予定通りに履行され、ライブドア・パートナーズの買収、フジテレビへのライブドア株式第三者割当増資等による巨額の資金がライブドアに払い込まれている。残るはフジテレビとライブドアの業務提携交渉・・・「業務提携推進委員会」が設置され年内を目処に検討が進められている。今のところ情報がほとんどなく、交渉がどの様な進展を示しているのか全く分からない。フジテレビの交渉に臨む態度がどの程度本気なのかにかかっているが、今年の秋にはある程度業務提携の概要が見えてくるのではないだろうか?
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