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第78段  * JR西日本の大事故 − 安全をないがしろにした愚行がもたらした大惨事 −

 4月25日に発生したJR西日本宝塚線の脱線事故は死者107名、重軽傷者460名の未曾有の大惨事となった。通勤のピークをやや過ぎた午前9時18分、高見運転士(23歳)が操作する7両編成の車両がJR尼崎駅の手前1.3Km地点のR300(半径300m)の右カーブにさしかかった時にその事故は起きた。事故調査委員会が原因調査中で、現時点ではカーブでのスピードの出し過ぎなどの要因が複合して起きたとの見方が有力になっている。事故の起きたカーブは制限速度70Km/hに定められている。ところがこの時高見運転士は制限時速をはるかに越える108Km/hでカーブに進入し、更にカーブ直前では120〜125Km/h出していたことが分かっている。車を運転していてカーブを高速で曲がるのと同じこと・・・。どんなに危険なことか分かっていたはずの運転士が何故その様な行動をとったのだろうか?事故調査委員会は運転士の速度超過など人為的ミスが主因となったと断定し異常な運転を招いた心理的要因を解明する為に、心理学など外部の専門家を招いた「専門調査部会」を設置する。

 
JR西日本の体質が問われる問題が次々と明るみになっている。競合する私鉄に対抗する為の高速/超過密ダイヤ、トラブルの多さ、再教育と言うよりもむしろ懲罰的な”日勤教育”の実態、社内情報伝達の悪さ、事故発生後の慰安会/宴会/社員旅行などの開催、事故車両に乗り合わせたJR西日本運転士の事故現場離脱などなど・・・。マスコミ報道で既に逐次詳しく報じられているのでここではこれ以上触れない。ただ言えることは国鉄民営化により民間企業となったJRは確かに国鉄の”親方日の丸”から脱却して改善されたところも多くあるが、一方で旧国鉄時代の負の部分(悪さ)を引きずっている側面が残っている。その負の部分が今回の事故の引き金(遠因)になっているとも言える。

 旧国鉄時代の労使関係は極めて悪く、経営側と労働組合は何事にも対立していた。経営側は”お上の意識”があり強権で上から組合を押さえつけようとしていた。一方組合は激しく経営側に抵抗し紛争は絶え間なく続く。コトあるごとに国労、動労は頻繁にストを行なっていたと記憶している。当時とにかく相互不信でまともな話合いができない状況に傍からは見えた。まさにお客様の迷惑など顧みることなく、お互いに自分勝手な主張ばかり繰り返していた。お客様の視線で行動できないのは最悪としか言い様がない。

 JRになって旧国鉄時代の悪しき労使関係は改善されたのだろうか?今回のJR西日本の事故での対応を見るとどうも改善されているとは思えない。経営側は当初から責任回避したい魂胆がありあり・・・「計算上133Km/h以上でないと脱線しない」とか「線路に粉砕痕があり置き石による脱線の可能性が高い」などと自分達に都合の良い情報/見解を示している。何としても他責にもっていきたい魂胆・・・運転士個人の問題、あるいは意図的な列車運行妨害などが原因で、経営側には責任がない方向に誘導したいとの目論見が随所に滲み出ている事故調査委員会の調査でこれらはあっさり否定された。

 それに
経営側が運転士/車掌を信頼しているとは言えず、遅延発生や手袋をするのを忘れたなどの理由で過酷な”日勤教育”を行なっている。長期間に亘り激しい個人攻撃に終始し、運転士/車掌の人格をズタズタに引き裂いている。こんなものは教育ではない。単なるいじめで「お前はダメ人間でどうにもならない」と決めつけているに過ぎない。徹底的に痛めつけるのが教育だと考えているのだろうか?それでは戦前の日本軍と変わりがない。こんなことをやっても悪い方向に行くだけで何も改善されない。初めから経営側はレベルアップなど狙っていないとしか思えない。組合は当然”日勤教育”の実情を把握していたはずで、経営側にはどの様な働きかけ/改善を要求していたのだろうか?それとも組合は経営側に口出しできなかったのだろうか?正常な労使関係であればこの様なあまりにもひどい実態が放置されていないと思われるが・・・?

 一方JR西日本労働組合の幹部がマスコミにいろいろと語っている。今まで表面化しなかった実情が多く語られることにより、JR西日本のひどい実態が浮き彫りにされた。しかしながら組合幹部の話はまるで他人事の様に聞こえてしまう。運転士/車掌は経営側の犠牲者と言わんばかり・・・。本当に組合に責任がないのだろうか?組合もJR西日本の当事者ではないか?今回の事故後まるで”鬼の首”を取ったがの如く、今まで口に出せなかったことを一気にまくしたてている。経営側の問題点を指摘するだけで、組合自らの反省の姿勢が感じられない

 こんなことでは民営化以前の旧国鉄時代の労使関係と何ら変わりはないのではないか?
JR西日本を本当に良くして行こうと言うのであれば、お互いにきちんとモノが言える正常な労使関係を築かないと明るい未来はないまた労使双方ともお客様の視線で行動することが抜けていたのは明らかで、旧国鉄時代のお客様不在の姿勢が残っている様ではどうしようもない。労使双方ともに”お客様あっての企業”と言うことを肝に銘じなければならない

 
JR西日本は安全をないがしろにして多数の犠牲者を出したことを深く反省して再発防止を図らなければならない。安全と品質を疎かにした企業は痛烈なしっぺ返しを喰っている。企業は利益を上げなければ存続できない。JR西日本は民間企業であり利益追求するのは当たり前・・・但しそこにはお客様に対して品質と安全を保証するのが大前提となる。ましてJR西日本は公共的な運輸機関であり多数のお客様の命を預かっている。JR西日本の経営者から全ての社員に至るまで、企業目標の利益確保の上に『お客様への安全と品質の保証』が鎮座していることを忘れてはならない

 5月7日JR西日本は安全を優先する企業風土の構築や保安システムの整備など再発防止に向けた5項目の施策を発表した。項目としては極めて当たり前のことが列挙されている。全てはこの項目をより具体的な実施項目に展開し定着させて行くことができるかにかかっている。

   (1)安全を優先する企業風土の構築
  (2)運転保安システムの整備
  (3)列車ダイヤの見直し
  (4)安全を担う人材育成、教育指導のあり方
  (5)情報伝達のあり方。

 加えて京阪神の主要路線に新型の自動列車停止装置(ATS―P)の全面導入、過密ダイヤ解消に向けて列車本数減便を実施するとしている。
JR西日本が信頼回復する為には、今回の事故から得られた教訓をきちんと活かし2度と不祥事を繰り返さないことしかない。公共性の高い運輸機関は生活には必要不可欠・・・JR西日本はじめ全ての運輸機関は安全第一を徹底して頂きたい。

 品質と安全はややもすると企業活動の中で二の次になりかねない。品質と安全への意識欠如が蔓延すると取り返しのつかないことになる。それに利益確保の為に品質と安全に関わるコストを削減してしまう企業がしばしば見受けられる。それが時として大きな事故やトラブルに繋がって行く。雪印食品、三菱自動車、そして今回のJR西日本などなど・・・。特に雪印食品は親会社雪印乳業の食中毒事件も重なり廃業に追い込まれている。
品質、安全問題を起こした企業は最悪消滅まで覚悟しなければならない
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