第84段    * 敵対的TOBの再来? − SPJの明星食品への仕掛け −

 10月27日米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(SPJ)は東証2部上場の明星食品に対するTOB実施を発表した。TOB価格は700円/株、買い付け期間は11月27日迄、買い付け予定株式数は4259万3739株で下限と上限を設定していない。ちなみにSPJはTOB価格700円について「直近1ヶ月間の終値平均の611円に約14・6%のプレミアムを加えた」としている。応募された株式は全て買取るとしている。最大で100%、つまり完全子会社化となる。TOBの状況次第では明星食品は上場廃止になる可能性が高い。これに対し明星食品は「聞いていないし賛同出来ない」としている。暫く前に世間を騒がせた王子製紙による北越製紙への敵対的TOBの再来となる可能性が高い。その場合明星食品はどの様な対抗策を打ち出して来るのか注目される。

 SPJによるTOB発表前日(10月26日)の明星食品の終値は609円・・・TOB発表を受け翌日の終値はストップ高(100円高)比例配分の709円で取引を終えている。様々な思惑が入り乱れ早くもTOB価格を上回る値がついた。TOB価格700円を睨みつつ株価が動き回る姿が予想される。

 SPJは明星食品株式の23.1%保有の筆頭株主で経営陣による自社株式買付け(MBO)を提案したが拒絶された。そこでTOBの強硬手段に踏み切った。そう言えば村上ファンドも確か阪神電鉄に対しMBOを持ち掛けたことがあった筈・・・結局
投資ファンドは株価を吊り上げて利益確保することが目的なのでどこもやることは似ている。SPJも自らが経営する気など毛頭ある筈が無い。明星食品のPBR(株価純資産倍率)が1倍前後と割安なところに目を付け、乗っ取り成功後には
企業価値を高めて再上場、あるいは他企業への転売などで多くの売却益を得る狙いがあると見ている。

 
村上ファンドも一時明星食品に割安感に目を付けて狙っていた時期があった。約8%の株式を取得、そして同業他社との合併を提案を行なった。この時明星食品は合併提案拒否の代償として増配で対応し何とか凌ぎ切った。結果として明星食品の株価が値上がりして村上ファンドは保有する全株式を売却して大きな利益を得た。結局投資ファンドとしてはどんな手段であれ儲かればそれで目的を達成する。 (村上ファンドにしてもSPJにしても)投資ファンドが如何に綺麗事を言ったところで絵空事でしかない。尤も別な(皮肉な)見方をすれば微温湯にドップリ浸かってノホホンとしている暗愚な経営陣に警鐘を鳴らす効果はあるが・・・。村上氏逮捕により緊張感の緩んだ経営陣への警告とも捉えることも出来る。

 LDによる”ニッポン放送乗っ取り騒動”の最中SBIの北尾氏が突如出現して事態が急展開したことは記憶に新しい。この時に『
ホワイトナイト』の経済用語が一躍世の中に知れ渡った。村上氏による”阪神電鉄乗っ取り騒動”の時には(結果として)阪急HDがホワイトナイトとなり阪急、阪神の経営統合に繋がった。これに関しては業界再編の一環との見方もある。一方人口減少による市場縮小の危機が迫る食品業界にとり今回のTOBが業界再編のトリガーになるとの見方が出ている。もしかしたらどこぞの○○○食品などがホワイトナイトとして出現、そして経営統合との事態に進展するかもしれない。

 ところでSPJとはいったい何者?2002年にアメリカのスティール・パートナーズなどの共同出資により日本株式への投資目的で設立された。今までに金属加工剤メーカーのユシロ化学工業、毛織物染色加工のソトーに敵対的TOBを仕掛けている。いずれのTOBも世の中の猛烈な反発を招き失敗したが、両社から大幅な配当増額をを引き出している。正面突破には失敗したが、タダでは引き下がらない強かさでちゃんと得るものは得ている。

 さて村上氏逮捕以降”音無しの構え”の投資ファンドがほとぼりが冷めた頃合いを見計らって動き出した様にも思える。かつて村上ファンドの保有の実態が明らかになると”村上銘柄”は株価が上昇した。今回もNPJが保有株式の株価低迷に業を煮やして(株価上昇の方策として)強硬策に打って出たと考えられる。実際NPJが明星食品へのTOBを明らかにした翌日には”SPJ銘柄”の大半が株価を上げている(SPJ銘柄リスト 参照)。まずは明星食品の株価がどの様に推移するのか株価推移表その9に追加して当面追跡を行なうことにする。

 SPJは多くの企業の大株主になっている。今回その中の一つに敵対的TOBを仕掛けたが、今回対象にはなっていない他の企業の経営陣は首筋の寒さを感じているのに違いない。もしかしたら遅ればせながら防衛策を打ち出すかもしれない。”他山の石”などと流暢なことを言っていられる様な陽気ではない。何せ何時何を仕掛けられるのか分かったものではない。敵対的TOBとまでは行かなくとも増配要求など様々な要求を出して来ることが大いに考えられる。もしかしたらSPJとSPJ銘柄との激しい鬩ぎ合いが続出するかもしれない。当面目が離せない。

 SPJ以外にも同じ様な動きの投資ファンドがある。10月18日には米系投資ファンドのダルトン・インブストメンツを問い合わせ先にジェイムムビーオー・ファンド・リミテッド(ケイマン諸島)が東証1部上場のサンテレホン株式へのTOB実施を発表している(こちら 参照)。TOB価格1100円/株、買い付け期間は11月8日迄、買い付け予定株式数は280万8000株を予定している。ちなみにダルトンはTOB価格1100円について「直近1ヶ月間の終値平均の901円に約22%のプレミアムを加えた」としている。

 ダルトンによるTOB発表直前の(10月18日)のサンテレホンの終値は937円・・・TOB発表を受け翌日はストップ高(100円高)買い気配のまま終了、10月20日には終値1066円で取引を終えている。その後は上昇せず10月27日の終値は1033円とTOB価格を下回って取引を終えている。この記事を書いた時点ではTOB価格1100円に届いていないが、果たしてTOB終了までに株価がどの様に推移するのか注目される。

 翌日サンテレホンの山西社長は「TOBは企業価値と株主利益を損なう危険性が高い」として反対を表明した(こちら 参照)。一方ダルトンの佐野社長は「我々は敵対的とは考えていない。企業価値を高める提案を粘り強く交渉したい」と述べたが、山西氏には話合いに応ずる意思はなくこれもまた
敵対的TOBとなった。全面対決の行方はどうなるのだろうか?ここもまた当面目を離せない。

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